市川速水(いちかわ・はやみ) 朝日新聞編集委員
1960年生まれ。一橋大学法学部卒。東京社会部、香港返還(1997年)時の香港特派員。ソウル支局長時代は北朝鮮の核疑惑をめぐる6者協議を取材。中国総局長(北京)時代には習近平国家主席(当時副主席)と会見。2016年9月から現職。著書に「皇室報道」、対談集「朝日vs.産経 ソウル発」(いずれも朝日新聞社)など。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
判決を受け入れられないのは理解できる。ただ、一国の代表の発言としてどうなのか?
「却下」は、具体的な審理をする前の「門前払い」を意味するが、審理すること自体おかしい、非常識だ、認められないというのは、韓国の司法を見下した発言であり、訴訟を起こした被害者への思いやりも全く感じられない。
かつて「歴史認識問題は問題として別途話し合い、実務的な協議は続けていこう」と、いわゆる「2トラック」「マルチトラック」方式で戦略的・未来志向の利益を模索しようとしていた日本の外交方針とも大きな齟齬がある。韓国・文在寅(ムン・ジェイン)政権が反日姿勢を前面に出していることも背景にあり、両国関係は、底なし沼のように悪化していくのは間違いないだろう。
韓国人元徴用工に関する日本企業への賠償命令などで、今回の判決への流れは予測できた。しかし、日本政府は今回、原告からの訴状の受け取りを拒否し、口頭弁論にも参加しなかった。最初から最後まで背を向けた格好だった。
では、具体的にこの判決を導いた韓国司法の法理は何だったのだろうか。
強く焦点を当てたのは、「被害者個人の救済策」だった。判決文の中ほどに次のような一文がある。
被害者たちは日本、米国などの裁判所に何度も民事訴訟を提起したが、全て棄却または却下された。(1965年の日韓)請求権協定と2015年『日本軍慰安婦被害者問題関連合意(筆者注:両政府が解決を宣言した日韓政府間合意)』もまた、被害を受けた個人に対する賠償を包括することができなかった。交渉力、政治的な権力を持つことができない個人に過ぎない原告らは、この訴訟以外に具体的な損害賠償を受ける方法は見いだしがたい。(原文は韓国語。ジャーナリスト・徐台教氏がネットで発信した日本語訳を基に一部意訳した。以下同じ)
では、菅首相が「決まりですから」と断定的に述べた「決まり」についてはどう判断したのか。「主権国家は他国の裁判権には服さない」という理屈は、「主権免除」「国家免除」と呼ばれる。
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