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「ドイツよ、お前もか」~メルケル後を迎える2021年、漂う不透明感

後継候補が16日に決定へ コロナによる延期経て構図変化

花田吉隆 元防衛大学校教授

新型コロナウイルス問題についての記者会見に臨むメルケル独首相=2020年3月、ベルリン(Christos S/Shutterstock)

16年間の「メルケル時代」終幕、世界の今後を左右

 この秋、ドイツ連邦議会選挙が行われメルケル首相の引退が予定される。実に16年の長きにわたる治政だった。メルケル時代とも称される一時代を築き、数々の足跡を刻んできた。その引退はドイツ内政ばかりか、欧州政治の今後も左右する。

 与党のキリスト教民主同盟(CDU)は1月16日の党大会で次期党首を選出する運びであり、次期党首が次の首相になる可能性が高い。しかし、一体誰が新党首の座を射止めるか、これからドイツはどう変化していくのか、まだ一向に先が見えてこない。

2回延期の与党党首選がいよいよ実施

キリスト教民主同盟の新党首に選ばれた直後のクランプ・カレンバウアー氏=2018年12月7日、ハンブルク
 党首選出のための党大会は、これまで2回コロナで延期された。今回、依然、コロナが猛威を振るう中、もうこれ以上延期するわけにもいかずオンラインによる開催となった。

 当面3候補の名が挙がる。いずれもここ2,3年馴染みの顔だ。

 一時、メルケル後継はクランプ・カレンバウアー氏に決まっていた。ところが、党首に就任した途端、能力不足を露呈した。失敗が重なり、とうとう後継の座を断念し、党首を辞任すると表明した。

 その結果、再び顔を現したのが以前の馴染みの面々だ。しかしこの3人、どうもパッとしない。

新鮮味に欠ける3氏は似たり寄ったり

 フリードリッヒ・メルツ氏はメルケル氏の長年の政敵だ。2000年から2002年、CDUの連邦議会院内総務を務めたがメルケル氏との権力闘争に敗れ政界を引退した。ビジネスに身を投じ財を成した後、2018年再びカムバック、党首の座を狙うもこの時はクランプ・カレンバウアー氏に敗れた。今回再度の挑戦で、依然党内右派から根強い支持がある。主張は、メルケル路線との決別、保守回帰だ。

 これに対抗するのがメルケル路線継承をうたうアルミン・ラシェット氏だ。ドイツ最大州のノルトライン・ウェストファーレン州知事。ドイツでは、知事から党首、首相に転身する例が多い。ラシェット氏はその意味で次期党首の最有力候補だ。そしてもう一人が、ノーバルト・レトゲン氏。外交のエキスパートを誇る連邦議員だ。

 これまで、ラシェット氏がメルケル路線継承を主張し一歩に出ていた。それを、メルツ氏が僅差で追いあげ、やや離れてレトゲン氏が続くといった構図だった。

 その構図が、今一つぼやけてしか見えないのは、候補者が新鮮味に欠けることに加え、3人が似たり寄ったりで違いがはっきりしないからだ。三者とも似た年恰好で、ドイツ北西部を拠点に活動する。従って主義主張も、親メルケル、反メルケルの違いはあるにせよ、それほど大きな違いがあるわけではない。どうしてもメルケル氏と比べられてしまい、小粒との評を免れない。

トレードマークとなった「メルケルのひし形」。胸の下に指先が触れ合うように手を置く。キリスト教民主同盟はメルケル氏の強いリーダーシップの象徴としても利用。2013年の連邦選挙戦終盤にはベルリン中央駅前に巨大横断幕を設けた

コロナ禍を経て新たに2氏が台頭

 どうにも盛り上がりに欠ける選挙戦だが、コロナの1年を経て、構図に変化が出始めた。これまで有力視されてきたラシェット氏がコロナ対応でつまずき、支持率で10ポイント以上メルツ氏に差を開けられた。加えてここにきて新たに二人が台頭してきた。イェンス・シュパーン保健相とマルクス・ゼーダー、バイエルン州知事だ。

独保健相として記者会見を行うイェンス・シュパーン氏=2020年6月(photocosmos1/Shutterstock)
 シュパーン氏は、もともと反メルケルで名を売った40歳の若手だ。やや過激とも思える言動を繰り返しメルケル氏批判の急先鋒を担った。ポピュリストまがいの主張には眉をひそめる向きもあったが党内右派には根強い支持があった。
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