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プラットフォーマー規制をめぐる欧州でのロビイストの暗躍

日本にとっての教訓は?

塩原俊彦 高知大学准教授

 2020年12月15日、欧州連合(EU)の欧州委員会は「欧州デジタル戦略」の一環として、デジタルサービス法(DSA)とデジタル市場法(DMA)という二つの立法イニシアチブを提案した(同戦略は同年2月に公表された「ヨーロッパのデジタルの将来を形作る」に詳しい)。立法イニシアチブは、「デジタルサービス向け単一市場に関する欧州議会と欧州理事会の規制(デジタルサービス法)および2000年電子商取引指令の改正のための提案」「デジタル分野における競争可能で公正な市場に関する欧州議会と欧州理事会の規制(デジタル市場法)のための提案」からなっている。

 このイニシアチブは、欧州議会やEU理事会での審議を経て電子商取引指令(e-Commerce Directive)を改正したり、新しい指令を発令したりするかたちで、各国の新しい国内法の制定や現行国内法の改正という拘束力をもつ「法律」になる見通しだ。

 ここではまず、DSA案とDMA案を紹介する。そのうえで、これらによって損失を被る米国の巨大プラットフォーマー企業(フェイスブック、アマゾン、アップル、グーグル[アルファベート傘下]など)がいわゆる「ロビイスト」を使って法案の換骨奪胎をはかろうとしている実態を紹介したい。最後に、こうした現状が日本に与える教訓についても考えたい。

ベルギー、ブリュッセルのEU本部  Shutterstock.com

DSA案のもたらす規制

 デジタルサービスには、ウェブサイトからインターネット・インフラ・サービスやオンライン・プラットフォームに至るまでさまざまある。DSA案は、主にオンライン仲介者とプラットフォームに関係する規制である。たとえば、オンライン・マーケット・プレイス、ソーシャルネットワーク、コンテンツ共有プラットフォーム、アプリストアだけでなく、オンライン旅行や宿泊施設のプラットフォームも対象となる。

 DSA案の背景には、オンライン上での違法な商品・サービス・コンテンツの取引と交換に対する懸念がある。オンラインサービスがアルゴリズムを操作するシステムによって悪用され、誤報の拡散を増幅させている現状を改めるのがねらいだ。

 同案では、特定のオンライン・プラットフォームに対して、そのサービスを利用しているトレーダーに関する情報を受け取り、保存し、部分的に検証し、公表する義務を課すことで、消費者にとってより安全で透明性の高いオンライン環境を確保しようとしている。そうしたプラットフォームのプロバイダー(プラットフォーマー)がどのようにコンテンツを調整しているか、広告やアルゴリズムのプロセスについて、より高い透明性と説明責任の基準を設定している。

 また、サービスの完全性を守るための適切なリスク管理ツールを開発するために、そのシステムがもたらすリスクを評価する義務を定めている。これらの義務の範囲に含まれるサービス提供者として、サービスの受信者数が4500万人を超えるプラットフォーマーが想定されている。

 罰則については、42条で、「加盟国は、本規則に定められた義務を遵守しなかった場合に課される罰則の最高額が、当該仲介サービス提供者の年収または売上高の6%を超えないことを保証しなければならない」と規定されている。さらに、「不正確、不完全、または誤解を招くような情報の提供、不正確、不完全、または誤解を招くような情報への回答または修正の不履行、立入検査の提出に対する罰則は、当該仲介サービス提供者の年収または売上高の1%を超えてはならない」と定められている。

 他方で、罰金については、52条で、「欧州委員会は、当該超大規模オンライン・プラットフォームが故意または過失であると判断した場合、当該超大規模オンライン・プラットフォームに対して、前会計年度の総売上高の6%を超えない範囲内の罰金を科すことができる」としている。

DMA案のもたらす規制

 DMA案の規制対象は主としてゲートキーパー・オンライン・プラットフォームだ。ゲートキーパープラットフォームは、重要なデジタルサービスの企業と消費者の間の関係をゲートキーパー(門番)のようにして結びつける機能を果たしている。これらのサービスのなかには、DSAの対象となるものもある。

 デジタル化の加速で、重要なエコシステムを少数の大規模プラットフォームが支配する状況が生まれている。だが、彼ら独自のルールは、これらのプラットフォームを利用する企業にとっては不公平な条件となり、消費者にとっては選択肢が少なくなるケースが目立つようになっているため、DMAで規制しようというのだ。その主たる規制対象がコア・プラットフォーム・サービスのプロバイダーとして指定されたゲートキーパーだ。

quka / Shutterstock.com

 DMA案では、「公正な商業環境を保護し、デジタルセクターの競争力を守るためには、ゲートキーパーによる不公正な行為に関する懸念を関連する行政機関やその他の公的機関に提起するビジネスユーザーの権利を保護することが重要である」として、たとえばビジネスユーザーとゲートキーパーとの契約書やその他の書面による守秘義務条項などで、「懸念を表明したり、利用可能な救済を求める可能性を何らかの形で阻害するような行為は禁止されるべきである」と規定されている。

 ほかにも、ゲートキーパーがソフトウェアアプリケーションの配布のために設定したルールが特定の状況下で、第三者のソフトウェアアプリケーションなどのエンドユーザーによる利用を制限したり、また、ゲートキーパーのコア・プラットフォーム・サービスの外でこれらのソフトウェアアプリケーションなどへのエンドユーザーによるアクセスを制限したりすることがあるとのべたうえで、このような制限は「不公平である」として、「禁止すべきである」としている。

 加えて、ゲートキーパーの規模が拡大し、ビジネスユーザーやエンドユーザーのゲートキーパーの提供するコア・プラットフォーム・サービスへの経済依存が強化される場合、ユーザー側への救済措置として、「事業またはその一部の売却を含む、法的、機能的、構造的分離などの構造的救済」をとることができるとされている。

 罰金については、26条で、「欧州委員会は、ゲートキーパーが故意または過失により法令を遵守していないと判断した場合、ゲートキーパーに対し、前会計年度の総売上高の10%を超えない範囲で罰金を科すことができる」と定められている。

「ロビイスト」の暗躍

 ここで紹介した2法案がEUで成立すれば、プラットフォームを提供するプラットフォーマー、すなわち、DMA案でいうゲートキーパーへの打撃は避けられない。そこで、その弱体化をねらってフェイスブックやグーグルなどはEUへのロビイ活動(政治家や官僚などへ一方の利害関係者に有利な政策を働きかける動き)を活発化させている。

 2020年12月14日付の「ニューヨーク・タイムズ電子版」によると、「EUのロビイ活動を監視するグループであるトランスペアレンシー・インターナショナルによると、2020年前半、グーグル、フェイスブック、アマゾン、アップル、マイクロソフトは合計1900万ユーロ(約2300万ドル)の支出を宣言しており、それは2019年のすべての支出を宣言したものと同額で、2014年の680万ユーロから増加している」という。なお、その支出は、

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