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トランプ氏アカウント凍結~民主主義は民主主義を否定するものに厳格であれ

Big Tech・ツイッター社による今回の対応は言論の自由の制限なのか?

米山隆一 衆議院議員・弁護士・医学博士

民主主義に危機をもたらした“扇動演説”

 まず大前提として、1月6日にトランプ大統領の支持者達が、トランプ氏の集会での氏の“煽動演説”をきっかけに、大統領選挙の結果を正式に確認する審議を上下院で行っていたアメリカ連邦議会議事堂に大挙して押し寄せ、議事堂内に不法侵入して、議事を中断させ、内部を荒らしまわった今回の事件は、それ自体許されない暴力の行使であると同時に、アメリカ、ひいては世界の民主主義に重大な危機をもたらすものだったと言えます。

 民主主義を支える要素は、本稿の主題である言論の自由や人権の尊重など様々にありますが、なかでも「選挙によって平和的に政権交代がなされる」ことは、その根幹と言ってもいいものです。これがあるからこそ、権力者は国民の言論の自由や人権を守るのであり、これが否定されるなら、権力者は容易に独裁者となり、言論の自由や人権をはじめとする、民主主義のすべてが成立しなくなってしまうからです。

 現場の証言等から徐々に明らかになっている暴動の経過や状況を見ると、トランプ氏は明らかに一定の意図をもって暴動を示唆・煽動しており非常に重い責任があります(参照参照)。また、そもそも事がここに至ったのは、トランプ氏が何ら根拠を示すことなくSNS、特にツイッター上で「選挙が盗まれた」という主張を続けてきた(参照)ためです。規制の是非はひとまずおくとしても、トランプ氏のツイッターでの発言自体が到底適切なものとは言えなかった(というより、むしろ明白に不適切ないものであった)ことは明らかだと言えます。

拡大1月6日、米首都ワシントンの連邦議事堂に集まったトランプ大統領の支持者たち=2021年1月6日、ランハム裕子撮影

アカウント凍結に法的な問題はない

 では、その様な民主主義を脅かす暴動に繋がったトランプ氏のツイッターアカウントを、私企業であるツイッター社が凍結することは適切でしょうか? 上述の通り、この措置については、言論の自由の観点から議論が巻き起こっていますが、原則論から言えば、私企業であるツイッター社が、トランプ氏に対して自社の無料サービスを提供するか否かを決めただけであり、法的な問題点を見いだすことは困難だと言えます。

 それどころか、こういったSNSサービスにおいて、常にすべての人に発信の機会が提供されなければならないのであれば、SNSサービスを提供する会社の言論の自由・営業の自由が大きく阻害されることになります。

 このことは、たとえば「参加者は阪神ファンに限る」という規約を掲げて「阪神ファンSNS」を運営している会社があったとして、そこに「私は阪神ファンだが、やはり日本人にとって野球は巨人。巨人が優勝してこそプロ野球は盛り上がる。巨人ファン以外はプロ野球ファンじゃありません」と強硬に主張する人が入ってきた時、そのアカウントを凍結する自由はあってしかるべきであることからも、明らかでしょう。

 すなわち、個人にとっての言論の自由が、「何かを言う自由」だけでなく「何かを言わない(言う事を強制されない)自由」が含まれるように、企業(集団)にとっての言論の自由は、「企業(集団)、そしてそのメンバーが何かを言う自由」であると同時に、「企業(集団)、そしてそのメンバーが何かを言わない(言うことを制限する)自由」を含むのです。

 そして、上記の巨人ファンの人は、「阪神ファンSNS」のアカウントを凍結されたからと言って、それ以外の様々な場所、「巨人ファンSNS」なり「プロ野球SNS」なりで、自分の主張をすればいいのであり、一企業のSNSのアカウントが凍結されたからと言って、その個人に対する「直接的な言論の自由の侵害」にはならないと考えられます。

 このことは、「SNS」ではなく「マスメディア」について考えれば、より鮮明になります。「SNSは全ての人に開かれていなければならない」ということが“一般的原理”であるなら、同じ理屈でマスメディアでもすべての人が同じように発言できなければいけないことになりますが、そんなことは現在行われていません。マスメディアで発信できる人が少数に限られ、自分には発信する機会を与えられていないからと言って、自らの「言論の自由」が直接的に侵害されていると考える人は稀です。

 すなわち、「言論の自由」というものは本来、「言論の発信を妨害されない自由」であって「言論の発信の場や手段が提供される保証」ではなく、それゆえツイッター社によるアカウントの凍結を法的問題である「直接的な言論の自由の侵害」と考えるのは、論理的に難しいということになります。

拡大kovop58/shutterstock.com

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筆者

米山隆一

米山隆一(よねやま・りゅういち) 衆議院議員・弁護士・医学博士

1967年生まれ。東京大学医学部卒業。東京大学医学系研究科単位取得退学 (2003年医学博士)。独立行政法人放射線医学総合研究所勤務 、ハーバード大学附属マサチューセッツ総合病院研究員、 東京大学先端科学技術研究センター医療政策人材養成講座特任講師、最高裁判所司法修習生、医療法人社団太陽会理事長などを経て、2016年に新潟県知事選に当選。18年4月までつとめる。2022年衆院選に当選(新潟5区)。2012年から弁護士法人おおたか総合法律事務所代表弁護士。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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