[18]確認された死者は実際の2%? 危機的な公衆衛生と経済状況
2021年01月16日
スーダンでは2019年4月に、30年間続いた軍事政権を率いていたバシール大統領が失脚し、同7月に軍と民間人・文民委員会が共同で統治する暫定政権が発足した。しかし、長引く戦争・紛争の中で経済、医療が荒廃しているところへ、昨春、コロナ禍が襲い、民主化プロセスは試練を迎えている。
3月初めに最初のコロナ感染者が確認された後、中旬からスーダン政府は、すべての学校、大学を閉鎖し、礼拝や集会、行事を禁止した。3月下旬からは午後8時から午前6時までの外出禁止令を発出した。人道物資・貨物便以外の国際線、国内線も停止し、さらに国内で県をまたぐバス移動を禁止するなどの措置をとった。当初の規制は1カ月間の予定だったが、さらに延長され、7月に一部緩和されたものの、外出規制が解除されたのは9月だった。
新型コロナの感染状況は、1月14日時点で世界保健機関(WHO)に報告された確認陽性者が2万5730人、死者は1576人。人口4380万にしては非常に少ない数字になっている。
しかし、英国のインペリアル・カレッジ・ロンドンのコロナ研究チームが2020年12月1日に出した報告書では、4月から9月までに報告された死者は実際の2%であると推計した。さらに、11月20日の時点で、報告されなかったコロナによる死者は「1万6090人」だという。その時点で公式に発表された死者は「1193人」であり、実際にはその13倍の死者がいるという推定になる。
国連の資料によると、スーダンは全国で7カ所のPCR検査センターを設立し、1日に800件の検査をしている。7月初めまでに計約1万8000件のテストを行ったが、そのころの陽性者は約9700人で、陽性率は54%という極端に高い数字だった。これは感染者の増加に対して、PCR検査が追い付いていないということである。
国連人道問題調整事務所(UNOCHA)の2020年12月の資料によると、スーダンでは自宅から2時間以内で医療機関に行くことができない人口が、全国民の約81%いるという。首都ハルツームだけでも医療機関の半分が医師不足や資金不足などで閉鎖になった。WHOによると、集中治療室(ICU)は全土で184床しかなく、そのうち人工呼吸器を備えているのは160床という。ICU専門の医師は、ハルツームに3人、地方に1人の計4人しかいない。
コロナ感染を防止する公衆衛生もひどい状況で、人口の63%は安全な水や下水道など基本的な衛生環境にない。また、23%は手を洗う石鹸や水が家になく、40%は飲料水がないという。さらに200万人近い国内避難民と、周辺国のエリトリアや南スーダン、エチオピアから来ている110万人の難民は、過密な集団生活を強いられ、感染リスクが極めて高くなっている。世界銀行によると、国際的な貧困の基準である収入が1日1.9ドル以下の割合が16.2%いる。人道支援を必要としているのは930万人で、コロナの蔓延によって、それが960万人に増加したという。
スーダンの貧困の蔓延、貧弱な医療体制は、1989年にクーデターで権力について以来、2019年まで30年間、軍事政権を続けたバシール政権の負の遺産である。スーダンでは1950年代から、アラブ人・イスラム教徒が多数を占める北部と、そこからの分離独立を求める非アラブ人・非イスラム教徒の南部との対立があり、バシール政権が生まれる前の1983年から2005年まで南北内戦が続いた。
一方でバシール政権は1991年の湾岸戦争後、対米強硬路線をとった。90年代半ばにイスラム過激派組織「アルカイダ」を率いたビンラディンがサウジアラビアから追放された後、スーダンに身を置いたことがあり、米国は1997年にスーダンを「テロ支援国家」として厳しい経済制裁を課した。
さらに、2003年からスーダン西部のダルフール地方で反政府勢力の反乱が始まり、バシール政権が支援したアラブ人民兵組織が反乱地域で民間人を虐殺した。それに対して、2009年に国際刑事裁判所は戦争犯罪でバシール大統領の逮捕状を発行した。
南北内戦では2005年に和平合意があり、南部の住民投票によって2011年に南スーダン共和国が独立した。独立した地域にはスーダンの主要な外貨収入源である原油の75%があり、南スーダンの独立はスーダン経済に大きな打撃となった。2018年には外貨収入の減少によって、インフレ率は70%となり経済は悪化した。
バシール政権は財政危機に対応するためパンや燃料への補助金を削減した。そのため物価が上昇し、2018年12月に民衆の大規模な街頭デモが広がった。
2019年2月に大統領は非常事態宣言を発令して、デモを抑え込もうとしたが、
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