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民主化途上のスーダン暫定政権にコロナが追い打ち

[18]確認された死者は実際の2%? 危機的な公衆衛生と経済状況

川上泰徳 中東ジャーナリスト

 スーダンでは2019年4月に、30年間続いた軍事政権を率いていたバシール大統領が失脚し、同7月に軍と民間人・文民委員会が共同で統治する暫定政権が発足した。しかし、長引く戦争・紛争の中で経済、医療が荒廃しているところへ、昨春、コロナ禍が襲い、民主化プロセスは試練を迎えている。

 3月初めに最初のコロナ感染者が確認された後、中旬からスーダン政府は、すべての学校、大学を閉鎖し、礼拝や集会、行事を禁止した。3月下旬からは午後8時から午前6時までの外出禁止令を発出した。人道物資・貨物便以外の国際線、国内線も停止し、さらに国内で県をまたぐバス移動を禁止するなどの措置をとった。当初の規制は1カ月間の予定だったが、さらに延長され、7月に一部緩和されたものの、外出規制が解除されたのは9月だった。

 新型コロナの感染状況は、1月14日時点で世界保健機関(WHO)に報告された確認陽性者が2万5730人、死者は1576人。人口4380万にしては非常に少ない数字になっている。

スーダンの新型コロナウイルス感染状況(2021年1月14日時点) 出典:世界保健機関拡大スーダンの新型コロナウイルス感染状況(2021年1月14日時点) 出典:世界保健機関

 しかし、英国のインペリアル・カレッジ・ロンドンのコロナ研究チームが2020年12月1日に出した報告書では、4月から9月までに報告された死者は実際の2%であると推計した。さらに、11月20日の時点で、報告されなかったコロナによる死者は「1万6090人」だという。その時点で公式に発表された死者は「1193人」であり、実際にはその13倍の死者がいるという推定になる。

 国連の資料によると、スーダンは全国で7カ所のPCR検査センターを設立し、1日に800件の検査をしている。7月初めまでに計約1万8000件のテストを行ったが、そのころの陽性者は約9700人で、陽性率は54%という極端に高い数字だった。これは感染者の増加に対して、PCR検査が追い付いていないということである。

 国連人道問題調整事務所(UNOCHA)の2020年12月の資料によると、スーダンでは自宅から2時間以内で医療機関に行くことができない人口が、全国民の約81%いるという。首都ハルツームだけでも医療機関の半分が医師不足や資金不足などで閉鎖になった。WHOによると、集中治療室(ICU)は全土で184床しかなく、そのうち人工呼吸器を備えているのは160床という。ICU専門の医師は、ハルツームに3人、地方に1人の計4人しかいない。

 コロナ感染を防止する公衆衛生もひどい状況で、人口の63%は安全な水や下水道など基本的な衛生環境にない。また、23%は手を洗う石鹸や水が家になく、40%は飲料水がないという。さらに200万人近い国内避難民と、周辺国のエリトリアや南スーダン、エチオピアから来ている110万人の難民は、過密な集団生活を強いられ、感染リスクが極めて高くなっている。世界銀行によると、国際的な貧困の基準である収入が1日1.9ドル以下の割合が16.2%いる。人道支援を必要としているのは930万人で、コロナの蔓延によって、それが960万人に増加したという。

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筆者

川上泰徳

川上泰徳(かわかみ・やすのり) 中東ジャーナリスト

長崎県生まれ。1981年、朝日新聞入社。学芸部を経て、エルサレム支局長、中東アフリカ総局長、編集委員、論説委員、機動特派員などを歴任。2014年秋、2度目の中東アフリカ総局長を終え、2015年1月に退職し、フリーのジャーナリストに。元Asahi中東マガジン編集人。2002年、中東報道でボーン・上田記念国際記者賞受賞。著書に『シャティーラの記憶――パレスチナ難民キャンプの70年』(岩波書店)、『イラク零年――朝日新聞特派員の報告』(朝日新聞社)、『現地発 エジプト革命――中東民主化のゆくえ』(岩波ブックレット)、『イスラムを生きる人びと――伝統と「革命」のあいだで』(岩波書店)、『中東の現場を歩く――激動20年の取材のディテール』(合同出版)、『「イスラム国」はテロの元凶ではない――グローバル・ジハードという幻想』(集英社新書)など。

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