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民主化途上のスーダン暫定政権にコロナが追い打ち

[18]確認された死者は実際の2%? 危機的な公衆衛生と経済状況

川上泰徳 中東ジャーナリスト

内戦と軍事政権30年間の負の遺産

 スーダンの貧困の蔓延、貧弱な医療体制は、1989年にクーデターで権力について以来、2019年まで30年間、軍事政権を続けたバシール政権の負の遺産である。スーダンでは1950年代から、アラブ人・イスラム教徒が多数を占める北部と、そこからの分離独立を求める非アラブ人・非イスラム教徒の南部との対立があり、バシール政権が生まれる前の1983年から2005年まで南北内戦が続いた。

 一方でバシール政権は1991年の湾岸戦争後、対米強硬路線をとった。90年代半ばにイスラム過激派組織「アルカイダ」を率いたビンラディンがサウジアラビアから追放された後、スーダンに身を置いたことがあり、米国は1997年にスーダンを「テロ支援国家」として厳しい経済制裁を課した。

 さらに、2003年からスーダン西部のダルフール地方で反政府勢力の反乱が始まり、バシール政権が支援したアラブ人民兵組織が反乱地域で民間人を虐殺した。それに対して、2009年に国際刑事裁判所は戦争犯罪でバシール大統領の逮捕状を発行した。

 南北内戦では2005年に和平合意があり、南部の住民投票によって2011年に南スーダン共和国が独立した。独立した地域にはスーダンの主要な外貨収入源である原油の75%があり、南スーダンの独立はスーダン経済に大きな打撃となった。2018年には外貨収入の減少によって、インフレ率は70%となり経済は悪化した。

 バシール政権は財政危機に対応するためパンや燃料への補助金を削減した。そのため物価が上昇し、2018年12月に民衆の大規模な街頭デモが広がった。

スーダンの首都ハルツームで、自由や民主化を求めてデモをする女性ら=2019年4月24日、中野智明氏撮影拡大スーダンの首都ハルツームで、自由や民主化を求めてデモをする女性たち=2019年4月24日、中野智明氏撮影

 2019年2月に大統領は非常事態宣言を発令して、デモを抑え込もうとしたが、

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筆者

川上泰徳

川上泰徳(かわかみ・やすのり) 中東ジャーナリスト

長崎県生まれ。1981年、朝日新聞入社。学芸部を経て、エルサレム支局長、中東アフリカ総局長、編集委員、論説委員、機動特派員などを歴任。2014年秋、2度目の中東アフリカ総局長を終え、2015年1月に退職し、フリーのジャーナリストに。元Asahi中東マガジン編集人。2002年、中東報道でボーン・上田記念国際記者賞受賞。著書に『シャティーラの記憶――パレスチナ難民キャンプの70年』(岩波書店)、『イラク零年――朝日新聞特派員の報告』(朝日新聞社)、『現地発 エジプト革命――中東民主化のゆくえ』(岩波ブックレット)、『イスラムを生きる人びと――伝統と「革命」のあいだで』(岩波書店)、『中東の現場を歩く――激動20年の取材のディテール』(合同出版)、『「イスラム国」はテロの元凶ではない――グローバル・ジハードという幻想』(集英社新書)など。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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