コロナと五輪と政治【1】ワクチンは間に合う?世界中の国は参加できる?迫る時間……
2021年01月19日
東京オリンピック・パラリンピック(東京五輪)の開催まで、あと半年となりました。2020年から続いているコロナ禍は「第3波」の真っ只中であり、史上初の延期となった今夏の開催さえ危ぶまれています。
2021年に入り、IOCのディック・パウンド委員が「現在、1月初旬であることを考えると、開催には75%の確信しか持てない。ウイルスの感染拡大だけは、現状ではコントロール不能だからだ」(ANN)と開催に懐疑的な見方を示したほか、菅内閣の閣僚である河野太郎行政改革担当大臣が「(無観客の可能性を含めて)五輪に備えて最善を尽くす必要があるが、どちらに転ぶかは分からない」(ロイター)と発言するなど、雲行きも怪しくなってきました。
そこで、東京五輪の開催是非を巡る議論や政治的利権、各国の思惑などを、「論座」で数回にわたって書いていきたいと思います。
新型コロナウイルス感染症との戦いを終えるための唯一の武器は、「ワクチン」です。幾つかの国で始まったワクチンの接種が全世界に広がれば、感染拡大の防止や社会不安の収束に絶大な効果ができ、東京五輪開催には好材料でしょう。
とはいえ、ワクチン接種は欧米の例を見ても、順調は言いがたい状況にあります。1月16日現在、世界中でワクチンの接種を受けた人はまだ3579万人です(Our World in Data ※ワクチン接種回数で計算しており、複数回接種の場合を考慮していないので接種を受けた人の実数はより少ない可能性がある )。
アメリカは2020年中に2000万人のワクチン接種を目標に掲げていましたが、実際には280万人の接種止まり、21年1月16日現在でも1228万人という状況です。バイデン新大統領は、就任後100日以内(計算上は2021年4月末まで)に1億人の接種を目指すとしていますが、一部の州では「コールドチェーン」と呼ばれる超冷凍状態でのワクチンの運搬物流が滞っており、またワクチン接種をする医療的人員が不足するなどの問題も起きているなど、前途多難な状況です。
確かに、日本は他のG7の国々と比べると感染拡大が抑えられてはいるものの、日本では接種開始が2月中旬以降になることを考えれば、ワクチン接種が他国より“周回遅れ”となることは明らかです。
また、フランスでは、世論調査に「ワクチンを接種する」と答えた人が4割であったと報道されており、今後のワクチン普及の支障になるとも言われています。一方、日本ではワクチンを接種することを希望する人の割合が6割程度ですが、接種開始の遅れもあり、集団免疫の獲得という最終的なゴールに早期にたどり着くまでには、時間がかかりそうです。
当初2020年に予定されていた東京五輪ですが、これが延期になった経緯はまさに急転直下でした。
20年3月12日に聖火リレーの採火式が始まったものの、翌13日にはトランプ米大統領(当時)が「無観客は想像できない。1年延期したほうがよいのではないか」と発言したことで風向きが変わります。3月20日以降、東北地方で聖火到着式や展示が行われましたが、3月22日にはカナダが2020年夏に五輪が開催された場合は選手団を派遣しない意向を表明、23日にはオーストラリアも同様の表明をしたことが決定打となり、24日に安倍首相(当時)とIOCバッハ会長との電話会談で延期が決まりました(2021年の五輪日程はこの後に別途協議で決定)。
このときのバッハ会長のコメントに、「感染が世界中に広がり、問題は日本がどうかというより、世界中の国が参加できるかどうかに変わってきた」というくだりがありました。開催国の日本だけでなく、世界中の国が参加できるかどうかという視点をIOCが重要視していたのであれば、2021年夏の五輪開催可否も当然この点が判断材料になってくることでしょう。
前回、選手団を送らないことを表明したオーストラリアでは、まだワクチン接種がはじまっておらず、厳格な入国管理制限などを行っていることからも、今回も同様の厳しい態度が予想されます。そもそもワクチンの接種は、欧米など先進国を中心に始まったばかりであり、開発途上国などのワクチン接種や集団免疫の獲得には年単位の時間が必要との予測もあります。
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