内閣支持が高かった若年層や与党支持層でも「菅離れ」。首相がやるべきことは……
2021年01月21日
波乱が必至と言われる通常国会が召集され、1月19日、菅義偉首相が就任以来、初めての施政方針演説を行った。
昨年10月の臨時国会で行われた所信表明演説と比べると新味には乏しいが、政権への逆風を意識してか高飛車な口調は影をひそめていた。新型コロナウイルスの感染拡大に対しては、「一日も早く収束させる」ために「この闘いの最前線に立ち、難局を乗り越えていく」と述べ、克服への強い決意を示した。
全体として、野党などに揚げ足をとられないように手を尽くした印象だが、ワクチンに関して「2月下旬までには接種開始」と述べ、夏に予定される東京五輪・パラリンピックについても開催への意欲をあらためて示すなど、「ワクチン頼み」「オリンピック頼み」の姿勢も垣間見えた。
今まで首相は「ポスト・コロナ」の生活や経済に対して、過剰に「希望」や「夢」を煽っている印象を与え、それに対する反発が多かった。今回の演説では、本人としては最小限にとどめたつもりなのだろうが、それでも「演説の大半はコロナ対策に割いてほしかった」という声が多く聞こえてくる。菅政権を取り巻く現在の厳しい環境は、今回の施政方針演説で転換できるほど生易しいものではないのだろう。
実際のところ、菅政権の支持率急落の流れは止まっていない。1月15日に発表された時事通信の世論調査によると、菅政権の支持率は34.2%で、前月から8.9ポイント下落、不支持率は39.7%で、前月より13.1ポイント上昇した。調査員による個別面接方式で実施される時事通信の世論調査は安定性に定評があるだけだけに、不支持が支持を初めて上回ったこの結果は衝撃的であった。
同月18日に発表された読売新聞の世論調査も、結果はほぼ同様。内閣支持率39%、不支持率49%と、こちらも支持と不支持が初めて逆転した。目につくのは不支持率が50%に迫っている点だ。これが50%を超えたら、政権運営に「赤信号」がともるが、このままでは時間の問題だろう。支持率と不支持率の合計が88%に達しているのも特徴的だ。これは、菅政権への世論が不支持基調で固まりつつあると見なすべきだろう。
読売新聞はこの調査結果について、「これまで他の年代に比べて内閣支持が高かった若年層や与党支持層でも『菅離れ』が始まった」とも解説しているが、これに異議はない。私も若年層、とりわけ学生の顕著な菅離れを肌で感じているからだ。
私は大学で時事問題についての特別講義を担当しており、昨年末に「コロナ対策についての私見を述べよ」というレポートを課した。ちなみに講義はオンラインで行われ、コロナに関して集中的に取り上げたことはなかった。つまり、学生は政府のコロナ対策についての私の考えを知らないし、私も学生の考えをしらない中での、年末12月21日提出のレポートだった。
いつもなら読むのが大変な学生のレポートだが、今回はそうではなかった。200枚近くあるレポートを、かつてないほど丹念に熱中して読んだのだ。それほどまでに、真剣で切実な学生の感想や意見に引き込まれたのである。
菅首相の今後に期待する学生もいるが、全体的には積極的に評価をする者がほとんどいないことに驚いた。それも、きわめて具体的な理由に基づくものであった。さすがに菅首相の退陣まで求める学生は少なかったが、それは与党内に適任者がおらず、野党にも政権担当能力がないと受け止められているからだろう。
学生たちがとりわけ強く批判していたのは、安倍晋三政権下での「アベノマスク」、菅首相の肝いりとされる「Go To トラベル」、昨年末に世論の批判を浴びた「首相の会食」などであった。コロナへの政府の対応や不手際に対する視線はきわめて厳しいものになっている。毎年恒例の学生レポートでは、不思議なほど政権支持が多かったのに、コロナ禍への対応がそれを一変させたのであろう。
「現在の政府は、コロナ対策と経済の板挟みにされてしまい、もはやどちらをとっても手遅れという印象をぬぐい切れない」(学生のレポート)という声が、世論調査の数字として表れている印象だ。
菅首相に期待していた学生からからも、失望感が透けてみえる。
「菅総理には頑張ってほしいが、空回りしているように感じる。学術会議の排除問題もそうだが、コロナ対策においても裏目に出ていると思う。……最近の会食の問題についてはガッカリした」
「政府の感染対策は不十分」だから「完全に収まることはない」と諦めつつ、「今はやりたいことを我慢する時期であり、感染拡大が徐々に収まりそれがなくなったときに、今まで通りに生活が送れ、家族や友人、大切な人と『生きて』そして笑って会えるようにしたい」と耐えている学生もいた。アルバイトがなくなる、家賃の支払いに苦しむ、自宅待機を強いられる……。学生たちの感想・意見はかつてないほど切実だった。
そんな彼らは今、政府の一挙手一投足に目を据えて監視している。ふだんなら「どちらでもない」という答えることが多いであろう世論調査にも、貴重な発信の機会として真剣に対応しているのだろう。
菅首相が今やるべきことは明らかだろう。「ワクチン頼み」「オリンピック頼み」を封印し、現在進行中のコロナの感染拡大防止に全力を集中することにつきる。
変異したウイルスによる感染拡大の「第4波」も現実味を帯びるなか、政府はここにきてビジネス目的の外国との往来を停止したが、対応がいかにも遅い。「まだ停止していなかったのか」という驚きと怒りさえ広がっている。迅速に対応せず、リスクを放置してきた責任は、これから厳しく問われるだろう。コロナ禍との戦いの最中に退陣した安倍晋三・前首相も同様だ。コロナ対策の道筋をつくった前政権の責任は、現政権の比ではないとも言える。
菅首相は今、「思想」、「資質」、「人格」、「政治手法」の四つの面から、首相の適格性を問われていると思う。そこで必要なのは、
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