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支持率続落の菅義偉首相の反転攻勢は可能か?~波乱の通常国会開会 

内閣支持が高かった若年層や与党支持層でも「菅離れ」。首相がやるべきことは……

田中秀征 元経企庁長官 福山大学客員教授

肌で感じる若者の「菅離れ」

 読売新聞はこの調査結果について、「これまで他の年代に比べて内閣支持が高かった若年層や与党支持層でも『菅離れ』が始まった」とも解説しているが、これに異議はない。私も若年層、とりわけ学生の顕著な菅離れを肌で感じているからだ。

 私は大学で時事問題についての特別講義を担当しており、昨年末に「コロナ対策についての私見を述べよ」というレポートを課した。ちなみに講義はオンラインで行われ、コロナに関して集中的に取り上げたことはなかった。つまり、学生は政府のコロナ対策についての私の考えを知らないし、私も学生の考えをしらない中での、年末12月21日提出のレポートだった。

 いつもなら読むのが大変な学生のレポートだが、今回はそうではなかった。200枚近くあるレポートを、かつてないほど丹念に熱中して読んだのだ。それほどまでに、真剣で切実な学生の感想や意見に引き込まれたのである。

 菅首相の今後に期待する学生もいるが、全体的には積極的に評価をする者がほとんどいないことに驚いた。それも、きわめて具体的な理由に基づくものであった。さすがに菅首相の退陣まで求める学生は少なかったが、それは与党内に適任者がおらず、野党にも政権担当能力がないと受け止められているからだろう。

拡大参院本会議で施政方針演説をする菅義偉首相=2021年1月18日

政府のコロナ対応を監視する学生たち

 学生たちがとりわけ強く批判していたのは、安倍晋三政権下での「アベノマスク」、菅首相の肝いりとされる「Go To トラベル」、昨年末に世論の批判を浴びた「首相の会食」などであった。コロナへの政府の対応や不手際に対する視線はきわめて厳しいものになっている。毎年恒例の学生レポートでは、不思議なほど政権支持が多かったのに、コロナ禍への対応がそれを一変させたのであろう。

 「現在の政府は、コロナ対策と経済の板挟みにされてしまい、もはやどちらをとっても手遅れという印象をぬぐい切れない」(学生のレポート)という声が、世論調査の数字として表れている印象だ。

 菅首相に期待していた学生からからも、失望感が透けてみえる。

 「菅総理には頑張ってほしいが、空回りしているように感じる。学術会議の排除問題もそうだが、コロナ対策においても裏目に出ていると思う。……最近の会食の問題についてはガッカリした」

 「政府の感染対策は不十分」だから「完全に収まることはない」と諦めつつ、「今はやりたいことを我慢する時期であり、感染拡大が徐々に収まりそれがなくなったときに、今まで通りに生活が送れ、家族や友人、大切な人と『生きて』そして笑って会えるようにしたい」と耐えている学生もいた。アルバイトがなくなる、家賃の支払いに苦しむ、自宅待機を強いられる……。学生たちの感想・意見はかつてないほど切実だった。

 そんな彼らは今、政府の一挙手一投足に目を据えて監視している。ふだんなら「どちらでもない」という答えることが多いであろう世論調査にも、貴重な発信の機会として真剣に対応しているのだろう。

拡大首相官邸 slyellow/shutterstock.com


筆者

田中秀征

田中秀征(たなか・しゅうせい) 元経企庁長官 福山大学客員教授

1940年生まれ。東京大学文学部、北海道大学法学部卒。83年衆院選で自民党から当選。93年6月、自民党を離党し新党さきがけを結成、代表代行に。細川護熙政権で首相特別補佐、橋本龍太郎内閣で経企庁長官などを歴任。著書に『平成史への証言 政治はなぜ劣化したのか』(朝日選書)https://publications.asahi.com/ecs/detail/?item_id=20286、『自民党本流と保守本流――保守二党ふたたび』(講談社)、『保守再生の好機』(ロッキング・オン)ほか多数。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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