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「世界大学ランキングのための大学改革」という愚策(上)

日本政府は英国の国家戦略に踊らされている

山内康一 前衆議院議員

「世界大学ランキング」とは何か

 安倍元総理肝いりの教育再生実行会議の提言を受け、政府は2013年「日本再興戦略」で大学改革にふれ、「今後10年間で世界大学ランキングトップ100にわが国の大学が10校以上入ることを目指す」とした。

 それから7年がたつが、目標達成にはほど遠い。しかし、「世界大学ランキングトップ100校入り」をめざした事業が実施され、大学への助成制度や大学運営に大きな影響を与えてきた。たとえば、2014年から「スーパーグローバル大学創生支援」事業(注)が始まり、37の大学が選ばれた。政府が世界大学ランキングの評価指標に合わせた大学改革を推奨し、それに従って大学改革が進んでいる。

スーパーグローバル大学創成支援事業のウェブサイトからスーパーグローバル大学創成支援事業のウェブサイトから

 日本の大学改革に大きな影響をあたえている「世界大学ランキング」とはそもそも何だろうか。もっとも有名な大学世界ランキングは、タイムズ・ハイアー・エデュケーション(Times Higher Education:THE)とクアクアレリ・シモンズ(Quacqarelli Symonds:QS)の2社のランキングであろう。ちなみに2社はどちらも英国の営利企業だ。

 まずはタイムズ・ハイアー・エデュケーションの最新の世界大学ランキングのトップ10を見てみよう。

1. オックスフォード大学 【英国】
2. カリフォルニア工科大学【米国】
3. ケンブリッジ大学 【英国】
4. スタンフォード大学 【米国】
5. マサチューセッツ工科大学(MIT)【米国】
6. プリンストン大学 【米国】
7. ハーバード大学 【米国】
8. エール大学 【米国】
9. シカゴ大学 【米国】
10. インペリアル・カレッジ・ロンドン【英国】

オックスフォードの街並み。聖マリア大学教会の塔から「尖塔の街」が一望できる=2013年11月28日オックスフォードの街並み。聖マリア大学教会の塔から「尖塔の街」が一望できる=2013年11月28日

 米国7校、英国3校と米英両国でトップ10を完全に独占している。次にQSの世界大学ランキングのトップ10を見てみよう。

1. マサチューセッツ工科大学(MIT)【米国】
2. スタンフォード大学 【米国】
3. ハーバード大学 【米国】
4. オックスフォード大学 【英国】
5. カリフォルニア工科大学【米国】
6. スイス連邦工科大学チューリッヒ校 【スイス】
7. ケンブリッジ大学 【英国】
8. ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン【英国】
9. インペリアル・カレッジ・ロンドン【英国】
10. シカゴ大学 【米国】

 QSのランキングのベスト10のうち、米国の大学が5校、英国の大学が4校、スイスの大学が1校。米英の大学がほぼ独占しているのはタイムズ・ハイアー・エデュケーションと変わらない。

米マサチューセッツ工科大学=2012年11月30日米マサチューセッツ工科大学=2012年11月30日

英国による、英国のためのランキング

 蛇足だが、8位のユニバーシティ・カレッジ・ロンドンは、ロンドン大学を構成する大学のひとつで、ここに属する教育研究所(Institute of Education)が筆者の母校(修士課程)である。

 だがその筆者も、これらのランキングは英国の大学に有利にできているのではないかと疑っている。そもそも、タイムズ・ハイアー・エデュケーションもQSも英国の営利企業であることを忘れてはならない。

 オックスフォード大学の苅谷剛彦教授(教育社会学)も、著書のなかで次のように述べている。

 「1999年に首相の肝煎りでイギリスの高等教育グローバル化政策が本格化し、さらに2006年にはその第2段目のロケットに点火がなされた。2000年代に入って急拡大する高等教育のグローバル市場で優位な地位を占めるための政策である。このような動きが本格化する時期にイギリスの有力誌が世界大学ランキングを発表するようになったのである。THEのランキングではイギリスの大学がアメリカの大学と並んで常に上位を占める。このような動きの連動を偶然と見るか、それとも国家的なマーケティング戦略と見るか。偶然と見るにはあまりに話ができすぎている。」

 ここに出てくる「1999年の首相」はブレア首相だが、ブレア政権は選挙でも外交でもマーケティング手法を使うのが特色だった。英国政府は高等教育のグローバル化と市場化を進め、そのためのマーケティングの道具として世界大学ランキングをうまく活用していると言える。

 英国政府は、大学を「輸出産業」と位置づけ、留学生受け入れを外貨獲得手段としてきた。留学生が落とすお金も重要だが、さらに留学生が英国式の思考様式や文化になじみ、親英的になって母国へ戻ることを期待しており、外交戦略上も留学生受け入れは重要だ。実際に英国留学組の多くは母国に帰って出世している。国家戦略として留学生受け入れ策があり、それを推進する上で英国の大学が上位に入る世界大学ランキングは重要なツールとなっている。

 教育の世界に競争原理や市場原理を本格的に持ち込んだのはサッチャー首相の教育改革だ。そこで「大学市場」における市場のルールを作るのが英国政府や英国企業であれば、英国の大学が有利になって当然だ。タイムズ・ハイアー・エデュケーションもQSも英国企業なので、両社の関係者には英国の大学で学んだ人が多いだろう。自らが学んだ大学に有利なルールを定めるのは、意図的か否かは別として、自然な流れである。世界大学ランキングが、公平公正でも中立的でもなく、英国バイアスのかたまりのようなランキングでも不思議ではない。

評価は指標ひとつで劇的に変わる

 ランキングの宿命ではあるが、評価指標のとり方ひとつで順位が劇的に変わる。

 2016年にタイムズ・ハイアー・エデュケーションのアジア大学ランキングで、2015年に1位だった東京大学が一気に7位まで下がった。常識的に考えて、たった1年で東京大学の教育研究レベルが急激に下がることはない。同時にたった1年でアジア圏の他大学が一気にレベルアップしたとも考えにくい。単に評価指標が変わったために、東京大学が1位から7位に転落しただけだ。評価指標を替えただけで、1位から7位に一気に順位が転落するランキングはおかしい。

東京大学本郷キャンパスの赤門=2017年3月16日、東京都文京区東京大学本郷キャンパスの赤門=2017年3月16日、東京都文京区

 また、ある指標を改善すれば大学ランキングの順位が一気に上がるとなると、人材や資金などのリソースをその指標の数値を上げるためだけに投入する大学

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