
米マサチューセッツ工科大学=2012年11月30日
英国による、英国のためのランキング
蛇足だが、8位のユニバーシティ・カレッジ・ロンドンは、ロンドン大学を構成する大学のひとつで、ここに属する教育研究所(Institute of Education)が筆者の母校(修士課程)である。
だがその筆者も、これらのランキングは英国の大学に有利にできているのではないかと疑っている。そもそも、タイムズ・ハイアー・エデュケーションもQSも英国の営利企業であることを忘れてはならない。
オックスフォード大学の苅谷剛彦教授(教育社会学)も、著書のなかで次のように述べている。
「1999年に首相の肝煎りでイギリスの高等教育グローバル化政策が本格化し、さらに2006年にはその第2段目のロケットに点火がなされた。2000年代に入って急拡大する高等教育のグローバル市場で優位な地位を占めるための政策である。このような動きが本格化する時期にイギリスの有力誌が世界大学ランキングを発表するようになったのである。THEのランキングではイギリスの大学がアメリカの大学と並んで常に上位を占める。このような動きの連動を偶然と見るか、それとも国家的なマーケティング戦略と見るか。偶然と見るにはあまりに話ができすぎている。」
ここに出てくる「1999年の首相」はブレア首相だが、ブレア政権は選挙でも外交でもマーケティング手法を使うのが特色だった。英国政府は高等教育のグローバル化と市場化を進め、そのためのマーケティングの道具として世界大学ランキングをうまく活用していると言える。
英国政府は、大学を「輸出産業」と位置づけ、留学生受け入れを外貨獲得手段としてきた。留学生が落とすお金も重要だが、さらに留学生が英国式の思考様式や文化になじみ、親英的になって母国へ戻ることを期待しており、外交戦略上も留学生受け入れは重要だ。実際に英国留学組の多くは母国に帰って出世している。国家戦略として留学生受け入れ策があり、それを推進する上で英国の大学が上位に入る世界大学ランキングは重要なツールとなっている。
教育の世界に競争原理や市場原理を本格的に持ち込んだのはサッチャー首相の教育改革だ。そこで「大学市場」における市場のルールを作るのが英国政府や英国企業であれば、英国の大学が有利になって当然だ。タイムズ・ハイアー・エデュケーションもQSも英国企業なので、両社の関係者には英国の大学で学んだ人が多いだろう。自らが学んだ大学に有利なルールを定めるのは、意図的か否かは別として、自然な流れである。世界大学ランキングが、公平公正でも中立的でもなく、英国バイアスのかたまりのようなランキングでも不思議ではない。