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「言論の自由」という幻想:いま米国で起きていることに寄せて/上

ソーシャルメディアによる「検閲」の線引きの困難さ

塩原俊彦 高知大学准教授

インターネット規制と米国

 拙稿「サイバー空間と国家主権」で論じたように、インターネット規制については欧州が先行した。米国の場合、性表現が青少年に与える悪影響に対処する目的で、1996年のコミュニケーション品位法(CDA)、1998年の児童オンライン保護法、2000年の児童インターネット保護法というかたちで、徐々にインターネット規制に舵が切られることになる。

 ジェームズ・エクソンという上院議員が1994年7月に提出したCDA案は、「性行為、排泄行為」などについて、18歳未満の者が利用できる方法で表示や配信を行うことを相手が自発的に始めたかどうかにかかわらず禁止する、つまりネットの運用者にそうした情報を削除することを義務づける内容であった。法案審議が不十分なまま議会が解散してしまったため、エクソンは1996年CDA案を再び提出し、これが制定されたのだが、その際、修正が加えられた。

 クリストファー・コックス(カリフォルニア州選出、共和党)とロン・ワイデン(オレンゴン州選出、民主党)の下院議員が、ネットワークの秩序維持に取り組んでいるウェブサイトを守らなければ、インターネット全体が訴訟と刑罰を恐れて麻痺状態になることに気づいたのである(その事情については前者の述懐に詳しい)。そのため、彼らは、「双方向のコンピューター・サービスの提供者ないし利用者を、出版業者ないし別の情報内容提供者によって供給された情報の話者とみなしてはならない」という条項を入れたのである。これによって、第三者である利用者が供給する情報を広めるだけの双方向のコンピューター・サービス提供者および利用者は、中身に関する法的責任を、出版業者などと異なり、免れることができたのだ。これが、合衆国法典第47編第230条、通称CDA230条と呼ばれるものである。

 わかりやすく言うと、CDA230条は、ソーシャルメディアをその内容に法的責任がある新聞としてではなく、印刷物を販売するニューススタンドとみなしていることになる。

 忘れてならないのは、CDA自体が成立直後の1997年6月、最高裁判所によって無効と判断されたことである。「レノ対アメリカ自由人権協会事件」の最高裁判決は、インターネット上での未成年者へのわいせつなコミュニケーションを禁止するCDAの反品位条項の違憲を宣言した。表現の自由を定めた憲法修正第1条に違反しているというのである。それでも、言論の自由を促進するとされた230条は存続した。

拡大米連邦最高裁判所 Shutterstock.com

コンテンツ・モデレーション

 CDA230条が生き残ったことで、フェイスブックやユーチューブなどのソーシャルメディアが行ったのが「コンテンツ・モデレーション」(content moderation)だ。ネット上の書き込みをモニタリングする投稿監視業務を

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筆者

塩原俊彦

塩原俊彦(しおばら・としひこ) 高知大学准教授

1956年生まれ。一橋大学大学院経済学研究科修士課程修了。学術博士(北海道大学)。元朝日新聞モスクワ特派員。著書に、『ロシアの軍需産業』(岩波書店)、『「軍事大国」ロシアの虚実』(同)、『パイプラインの政治経済学』(法政大学出版局)、『ウクライナ・ゲート』(社会評論社)、『ウクライナ2.0』(同)、『官僚の世界史』(同)、『探求・インターネット社会』(丸善)、『ビジネス・エシックス』(講談社)、『民意と政治の断絶はなぜ起きた』(ポプラ社)、『なぜ官僚は腐敗するのか』(潮出版社)、The Anti-Corruption Polices(Maruzen Planet)など多数。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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