メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

news letter
RSS

「世界大学ランキングのための大学改革」という愚策(下)

「大学の英語化」ではない、真のグローバル化とは

山内康一 衆議院議員

母語で教育を受けられる利点を手放すべきか

 しかし、学術レベルが高くても、英語で論文を発表し、外国人教員の比率を上げないことには世界大学ランキングの上位には入らない。

 大学世界ランキングの順位を上げることを目的とすれば、外国人教員や留学生を増やさなくてはならない。外国人教員と留学生を増やすために、英語で開講される講義が多くなる。

 たとえば、外国人留学生向けに日本に強みのある工学部や日本研究などのコースを英語で開講してもよいだろう。そういったコースには一定のニーズがある。しかし、学生の大半が日本人のコースを、無理して英語で開講する必要はない。そもそも英語の講義だけを受けたければ、海外の大学に行った方が手っ取り早い(ついでに海外生活で異文化も体験できる)。

「スーパーグローバル大学」37大学の一つに選ばれた立命館アジア太平洋大学(APU)の入学式。52カ国・地域から606人の留学生が入学した=2014年9月19日、大分県別府市拡大「スーパーグローバル大学」37大学の一つに選ばれた立命館アジア太平洋大学(APU)の入学式。52カ国・地域から606人の留学生が入学した=2014年9月19日、大分県別府市

 母語である日本語で大学教育を受けられることは、多くの日本人にとって大きなメリットである。母語で大学教育を受けられることが、大学教育の普及に大きく貢献してきた。

 人間は言葉で考える。言語が思考を規定する。高度な学問を母語で学べるのは、その点からも強みだ。言語の多様性は、人類全体にとって価値がある。いまの「大学のグローバル化」は、ほぼイコール「大学の英語化」に堕している。いわば英語帝国主義的な大学のグローバル化が、言語の多様性を壊しつつある。そして「言語が思考を規定する」という前提に立てば、言語の多様性が失われることは、思考の多様性が失われることである。

 世界の多様性を守るために、日本語と日本文化を守っていくことは、人類全体への貢献である。大学教育の英語化を進めることは、日本語や日本文化を守り発展させる上でも、世界の言語の多様性を守る上でも、大きな禍根を残す。

 慣れ親しんだ母語の基礎の上に、母語で高度な学問を学べることは、外国語のハードルを乗り越えた上でないと高度な学問を学べない国の人たちにはない利点である。

 母語で高等教育を受けられない人が、世界にはかなりの割合で存在する。世界に数千ある言語の中で、複雑な近代科学を論理的に書き記すに足る語彙を持っている非ヨーロッパ言語は少ない。先人たちの努力のおかげで、日本語や中国語、韓国語などは恵まれた部類に入る。

 筆者はフィリピンの大学に1年留学したことがあるが、英語が得意でないフィリピン人の大学生が多数いることを知り、彼らを見て気の毒に思った。日本人は英語ができなくても社会生活や職業生活においてさほど困らない。しかし、フィリピン人で英語ができないと、社会生活を送る上で多くの困難に直面する。

 フィリピン人のエリートは英語で教育を受けているので、グローバルな競争で有利な面もある。その一方、英語の不得意なフィリピン人は、大学教育を受けられる選択肢が極端に少なくなる。日本人なら英語が苦手でも、物理学や経済学などの高度な学問を母語で学べる。しかし、フィリピン人で英語が苦手な人は、物理学や経済学を学ぶのにも不自由する。エリートのフィリピン人にとっては英語はハードルではないかもしれない。他方、非エリートのフィリピン人にとっては英語のハードルは高く、大学教育へのアクセスが限定され、大学教育の大衆化のハードルとなる。

 日本にも英語公用語化を唱える人がいるが、筆者は「英語公用語化=日本の英語植民地化」だと思う。英語公用語化は、英語が得意な国民とそうでない国民の分断を招く。平均的な国民の教育水準を高める

・・・ログインして読む
(残り:約4302文字/本文:約7331文字)

全ジャンルパックなら本の記事が読み放題。


筆者

山内康一

山内康一(やまうち・こういち) 衆議院議員

 1973年福岡県生まれ。国際基督教大学(ICU)教養学部国際関係学科卒。ロンドン大学教育研究所修士課程修了。政策研究大学院大学博士課程中退。国際協力機構(JICA)、国際協力NGOに勤務し、インドネシア、アフガニスタン等で緊急人道援助、教育援助等に従事。2005年衆議院議員初当選(現在:4期目)。立憲民主党国会対策委員長代理、政調会長代理等を歴任。【Twitter】@yamauchiko1【Facebook】https://www.facebook.com/yamauchi.office/

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

山内康一の記事

もっと見る