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コロナ禍でリビア内戦が激化、患者受け入れ病院の攻撃も

[19]コロナと経済悪化で民衆は二重苦。停戦は継続できるか

川上泰徳 中東ジャーナリスト

 2011年の民主化運動「アラブの春」で、リビアは内戦化した。その結果、強権体制が倒れ、独裁者のカダフィー大佐が殺害された。その後、一時、民主的な議会が開かれたものの、2014年から西のトリポリ、東のベンガジを拠点とする政治勢力による東西の内戦(第2次リビア内戦)が始まった。2020年1月に国際的な介入で停戦合意に近づいたが、世界が新型コロナウイルスの蔓延でリビアから目を逸らしている間に戦闘が激化し、民衆は戦争とコロナの二重苦で苦しんでいる。

BENGHAZI - LIBYA - APRIL 14, 20122012年4月、ベンガジで thomas koch/Shutterstock.com

 1月21日時点で、人口690万のリビアの新型コロナ確認陽性者数は11万1124人、死者は1715人となっている。国連などのサイトによると、陽性者の多くは、トリポリに拠点を置き、国連が認定している「国民合意政府」(GNA)の発表に基づくもので、東の都ベンガジを中心にした元リビア国軍将軍のハフタル司令官が率いる軍事組織「リビア国民軍」(LNA)や、LNAと連携し、東部の古都トブルクに拠点を置く「代表議会」の支配地域での感染者は少ない。だが、リビア全体ではかなり感染が広がっていると見られている。

リビアの新型コロナウイルス感染状況(2021年1月21日時点) 出典:世界保健機関リビアの新型コロナウイルス感染状況(2021年1月21日時点) 出典:世界保健機関

 2011年以来、内戦下にあるリビアでは、コロナの感染が始まる前から、医療インフラは破綻していた。世界保健機関(WHO)の2020年3月の資料によると、リビア東部地域で、コロナ重症患者に対応できる集中治療室(ICU)を有している病院は、2017年の時点で75病院に482ベッドという。一方で75%の医療施設が、スタッフの不足や医療機器の故障などによって機能していないという。

 リビアで最初にコロナの陽性者が確認されたのは、国民合意政府が発表した3月25日のことだが、同政府は10日前の3月14日に「非常事態宣言」を発出し、空港や港を閉鎖し、公的行事の停止や学校の封鎖を命じていた。さらに3月22日には夜間の外出禁止令を出した。一方、ハフタル司令官が支配する東部地域でも同様の対策がとられた。

 リビアで医療支援活動を行っている赤十字国際委員会(ICRC)が2020年6月に出したリポートによると、政府のコロナ対策によって食料の値段が2割ほども上がり、小麦など一部の食料は場所によって2倍以上になったという。ICRCが聞き取りをした人々の52%が生活に困難を来していると語り、さらに85%は危機に対応するための貯えがないと答えたという。ある女性は「商店主だった夫はコロナ対策で店を閉じて、戦闘に参加し、私は病院の受付として働いていたが、コロナの影響で解雇された」と語っている。「(2020年)1月の初めには生活がよくなるのかと幸せを感じたが、2カ月後にはその幸せは消えてしまった」と語る。

「地球規模の停戦」呼びかけのなか、戦闘が激化

 3月23日、国連のグテレス事務総長は世界の紛争地に対して、コロナウイルスと闘うための「地球規模の停戦」の実施を呼びかけた。ところが、リビアでは戦闘は逆に激化した。

 リビアの政治状況を理解するために、2011年の「アラブの春」以降の動きをおさえる必要がある。「アラブの春」で国際社会の支援を受けた反体制組織「リビア国民評議会」が内戦を経て、カダフィー体制を倒した。その後、2012年に「国民議会」選挙が実施された。世俗派の「国民勢力連合」が第1党、リビア・ムスリム同胞団が創設したイスラム派の「公正建設党」が第2党となった。

首都からの民兵の退去を求めるトリポリ大学の学生たちの集会=19日、トリポリのアルジェリア広場 2013年11月19日、撮影・筆者首都からの民兵の退去を求めるトリポリ大学の学生たち=2013年11月19日、トリポリのアルジェリア広場 撮影・筆者

 国民勢力連合と公正建設党の政治的な対立は国民議会創設後も続き、それぞれ内戦を担った民兵組織とつながり、その民兵組織同士が衝突した。2014年に正式議会としての「代表議会」の選挙が行われ、世俗派が勝利したが、イスラム派は選挙の違法性を訴えて、武力による代表議会の排除に出た。代表議会は東部のトブルクに移り、トリポリを拠点とする「国民議会」政府と東部の「代表議会」政府に分裂した。

 国民議会政府の主力がリビア・ムスリム同胞団だったことから、「アラブの春」で生まれたムスリム同胞団系大統領を軍のクーデターで排除したエジプトのシーシ政府や、シーシ政府を支持するアラブ首長国連邦(UAE)、さらにロシアが、「代表議会」政府を支援した。一方、イスラム系のエルドアン大統領が率いるトルコやカタールは「国民議会」政府を支援し、リビア内戦に外国が介入する構図が生まれた。

 2015年10月、国連は東部、西部、南部の代表で構成し、ファイズ・サラージ氏を首相とする国民合意政府(GNA)を提案した。西の国民議会政府は提案を受け入れて、トリポリを拠点とする国民合意政府が創設され、それを拒否する東部の代表議会政府が対立する構図となった。

 一方、2015年に代表議会政府の軍司令官に任命されたハリファ・ハフタル将軍が「リビア国民軍」を率いて、2017年に「イスラム国」(IS)系のイスラム過激派勢力を排除して東部の主要都市ベンガジを制圧した。

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