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菅義偉政権はもつのか? 世論とズレる政策、自民党の劣化、カギを握る五輪

止まらぬ支持率の低下。与野党から政権維持を危ぶむ声。「4月危機」はあるか?……

星浩 政治ジャーナリスト

 菅義偉政権の混迷が続いている。新型コロナウイルスの感染拡大が続き、東京都など11都府県を対象に緊急事態宣言を出して飲食店の営業時間短縮などを進めているが、感染を抑え込めないでいる。

 そもそも、昨年12月の段階で特別措置法の改正などに取り組んでいればよかったのに、経済活動への配慮から後手に回った。菅首相が国民に届くメッセージを出せないという根本的な問題点も抱える。菅首相と国民の意識とのズレ、政府の政策と国民の要求とのズレが広がっている。

 内閣支持率の低下は止まらず、「菅政権はもつのか」という声が与野党から出始めてきた。政権の「4月危機」はあるのか。先行きを占ってみる。

長期政権に倦んだ国民に与えた「安心感」

 昨年9月に発足した菅政権は当初、6割を超える高い支持率を誇った。7年8カ月続いた前任の安倍晋三政権が、憲法改正など保守イデオロギーを掲げ、リベラル勢力への対決色を鮮明にしたのに対して、菅首相は携帯電話料金の引き下げに代表される「小政治の積み上げ」を打ち出した。長期政権に倦(う)んだ国民に「安心感」を与えたのは確かだろう。

 立憲民主党の幹部が「安倍氏には右派の危うさを感じたが、菅氏にはその危うさがない」と語っていたのが印象的だった。菅氏が秋田の農家出身のたたき上げで無派閥という点も好感を持たれた。

記者の質問に答える菅義偉首相=2021年1月21日、首相官邸

首相の体質・資質を示した日本学術会議問題

 しかし、菅首相を取り巻く状況は甘くなかった。

 政権発足直後に、菅首相が日本学術会議の会員候補6人に対して任命を拒否していたことが判明。警察出身の杉田和博官房副長官が作成した「拒否リスト」を、菅氏がそのまま受け入れていた。

 菅氏は「学術会議のメンバーは公務員だから、首相に人事権がある」という論理を押し通し、「首相の人事権乱用」「学問の自由侵害につながりかねない」といった批判には正面から答えない。「強権体質」の一面が表れたことにくわえ、国民の不安に対して十分説明しきれない菅首相の資質の一端があらわになった。

 7年8カ月の官房長官時代、菅氏は官邸に集中した人事権を行使して、霞が関の官僚たちににらみを利かせてきた。「政権の政策に従えない官僚は異動してもらう」とも公言。菅氏にとって政治家の言葉とは、政策について考え方の異なる官僚を説得するためのものではなく、問答無用の指示・命令のためのものだった。

首相との会談を終え、記者の質問に応じる日本学術会議の梶田隆章会長=2020年10月16日、首相官邸

コロナ禍での言動で際立つ国民とのズレ

 そうした体質はコロナ対応でも露呈した。10月、11月と感染者が急増。政府の分科会の専門家が「Go To トラベル」などの停止を訴えたにもかかわらず、菅首相は「飲食の営業時間を短縮すれば感染拡大は防げる」との考えから、「Go To トラベル」などを継続した。

 そこに決定的な出来事が重なる。菅首相が国民に対して夜の会食を自粛するよう呼びかけていたさなかの12月14日夜、二階俊博自民党幹事長やタレントらが東京・銀座の高級ステーキ店で開いていた忘年会に菅首相が参加、約40分間、飲食をともにしたのだ。

 これがネット上などで厳しい批判を受けた。菅氏本人は「反省」を表明し、年末から会食を控えた。しかし、世論調査の支持率は急落。政権にとって大きな痛手となった。

 多くの国民は感染への恐怖を抱きながら、収入の減少に悩まされている。そうした状況下での菅首相の言動は、国民との意識のズレを際立たせるものだった。

国民への発信が不足、政策もちぐはぐ

 菅首相は官邸での記者会見も少なく、国民への発信不足も目立った。感染症への対策はワクチンが普及するまでの間、マスク着用や手洗いなどを励行しつつ、人と人との接触を極力減らしていくしかない。国民にそうした基本姿勢を分かりやすく、丁寧に説明する。菅首相にはそうした基本的な作業が不足しており、それが国民との意識のズレをさらに拡大していった。

 政策のズレも深刻だ。通常国会の提出された2020度の第3次補正予算案(総額約19兆円)には、1兆円の「Go To トラベル」予算が計上されている。年末年始には「Go To トラベル」が全国で停止され、緊急事態宣言を受けて停止措置は2月7日まで延長されているのに、大盤振る舞いの予算措置は続いているのである。

「Go To トラベル」一時停止。浅草・仲見世通りの店頭には、観光支援策ポスターが貼られたままになっていた=2020年12月28日、東京都台東区

 感染拡大に伴う病床ひっ迫に対応するために、コロナ向けの病床を新設した場合、一床あたり約2000万円を補助する制度もスタートさせる。だが、民間病院にとっては多額の補助金を受け取っても院内感染が発生すれば、病院経営が厳しくなるという事情がある。厚生労働省と、自治体、民間病院とが連携して患者の受け入れ態勢を整備することが急務なのだが、菅首相のリーダーシップは発揮されていない。

 飲食店の営業時間短縮に伴う給付金についても、1日あたり一律6万円という制度には不満が多く、店の規模に応じて増額すべきだという要望が出ているが、政府の対応は鈍い。

 危機意識や政策をめぐり、政権と国民との間にズレが生じることはしばしばある。だが、多くの場合、政権与党が国民のニーズを吸い上げて、そのズレを埋める作業を進めてきた。今回のコロナ危機では、自民党がそういう役割を果たせていないことが、危機をさらに深めているといっていいだろう。

菅首相が描く自民党総裁再選への展開

 では、菅政権は今後どうなるのか。

 菅首相が描いてきたのはこんな展開だろう。

 6月までの通常国会ではコロナ対策や安倍前首相の「桜を見る会」の政治資金問題などで野党の厳しい追及を受けるが、

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