人類が未経験の情報操作の危機――規制は民意に選ばれた議会の元で
2021年01月24日
1月6日、数百人の暴徒が米国の連邦議会議事堂に乱入、5名が命を落とすとの衝撃的事件が起きた。
何が衝撃的かと言えば、その直前、トランプ大統領(1月20日に退任)がこれを煽るかの如き演説をしたことだ。一説には、トランプ氏は以前からこの事件を企図していたという。それが本当とすれば、「大統領によるクーデター」ともいえる。
しかし、大統領選挙に敗れた勢力がその結果の受け入れを拒み、結果を覆そうとして実力行使に出る、しかも議事堂への乱入にむけ群衆を「扇動」する、それもあろうことか現職の大統領がそれを行う、というのは、一部途上国ではままあることながら、世界の民主主義をリードすべき米国で起きるべきことか。
改めて言うまでもないが、民主主義の基本は選挙であり、勝者、敗者を問わず、結果を受入れることこそが肝要だ。それにより権力が平和的に移行され、民意に基づく新たな政府が誕生する。もし選挙に敗れた方が、結果を受入れないとして実力行使に出たら、権力の平和的移行は保証されなくなる。
そうでなく、敗者は、今回は破れたが、次回、多数票の獲得により再び権力の座に返り咲ける、との保証が制度として与えられるからこそ、「ここはひとまず引き下がろう」となる。
つまり、選挙結果の勝者、敗者双方による受け入れこそが民主主義の根幹ということだ。その根幹をあろうことか、米国大統領自らが踏みにじった。米国史に拭い難い汚点を刻んだというべきだ。
トランプ氏は「選挙に不正があった」という。つまり、「選挙結果を受け入れるにやぶさかでないが、それは、選挙が公正に行われた場合のことであり、選挙に不正があれば、結果は民意を反映したものでないから、自分がそれに従うべきいわれはない」。
実際、そういう理由で選挙結果を受け入れないとした例はいくらもあり、例えば、2019年、ボリビアで行われた大統領選挙では、当時のモラレス大統領が不正を働いたとして野党候補が結果の受入れを拒否し、国内が騒然とした。この時は、米州機構(OAS)が調査団を派遣し不正を認定、大統領は辞任し、結局、選挙結果は覆されることとなった。
では、米国で本当に選挙の不正があったのか。トランプ氏による60近い訴訟のことごとくが裁判で却下されたことから考え、不正はなかったということだろう。
ここで問題は、裁判所が何を言おうが「選挙に不正があった」と考える有権者が多数いることだ。ある調査では、その数、国民の46%に上るという(12月末時点。なお不正がなかったとする者45%)。
米国社会が分断され、互いが理解し合えないことが背景にあるが、その原因の一端がSNSにある。
SNSは社会を大きく変えた。
それまで、情報は一握りの特権階級のものだった。ヨーロッパ中世では僧院の奥深きところにのみ存在した「知」は、やがてそこから解き放たれはしたものの、長く、特定の一部のみ接触できるものでしかなかった。やがて印刷技術が生まれ、聖書が広く大衆の手に行き渡ったことは画期的だった。そして、それが更にマーケットを通し、広く大衆が手にできる時代がやってきたとき、「知」は広く大衆の所有する物となっていく。
それでも、SNS出現の前までは、知、即ち情報は、なお一部が特権的に所有するものでしかなかった。
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