メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

RSS

【8】労働生産性が低いと何が問題なのか

GDPが頭打ちに、福祉水準や治安の悪化も

塩原俊彦 高知大学准教授

 日本の労働生産性が低いことは有名だ。経済面からみた「ニッポン不全」は、まさにその労働生産性の低さに現れていると言えよう。

 毎年、経済協力開発機構(OECD)や世界銀行などのデータに基づいて「労働生産性の国際比較」を発表している日本生産性本部は2020年12月、OECDデータに基づく2019年の日本の時間当たり労働生産性(就業1時間当たり付加価値)が47.9ドル(4866円/購買力平価[PPP]換算)で、OECD加盟37カ国中21位だったと発表した(図1参照)。名目ベースでは前年から5.7%上昇したものの、主要先進7カ国でみると、データが取得可能な1970年以降、最下位の状況が続いている(図2参照)。

 日本の一人当たり労働生産性(就業者一人当たり付加価値)でみても、8万1183ドル(824万円)で、OECD加盟37カ国中26位にとどまり、1970年以降最も低くなっている(図3参照)。

 他方で、2018年の日本の製造業の労働生産性水準(就業者一人当たり付加価値)は、9万8795ドル(1094万円/為替レート換算)で、日本の水準は米国の概ね2/3にすぎない。ドイツ(10万476ドル)や韓国(10万66ドル)をも下回っている。順位でみるとOECDに加盟し計測に必要なデータを利用できる主要31カ国の中で16位にとどまっている。

労働生産性という概念

 そもそも労働生産性といっても、さまざまな定義がある。簡単に言えば、労働者が生み出す成果の効率性を測るために計測する概念であり、労働投入量(インプット)と産出量(アウトプット)から算出する。下の式がそれである。

拡大

 もちろん、それぞれ何をインプットやアウトプットとするかによって労働生産性の数値は異なる。おまけに、各国を比較する場合には、為替レートにどんな換算方式を使うかによっても大きな差が生じてしまう(詳しくは前田泰伸著「我が国における労働生産性をめぐる現状と課題」を参照)。

 日本生産性本部の場合、国レベルでの比較を行うために、産出量として毎年のフローベースの付加価値を示すとみられる国内総生産(GDP)を分子とし、労働投入量として従業員数または就業者数×労働時間を分母として労働生産性を計測している。この際、同本部はOECDの統計データを中心に各国統計局や他の国際機関等のデータも補完的に用いている。とくに問題になるのは、GDPを比較するために用いる購買力平価(PPP)だ。物価水準などを考慮した各国通貨の実質的な購買力を交換レートで表したもので、為替変動に伴うぶれを回避しつつ、現地通貨建てで評価されるGDPをドルに換算して比較するために利用されている。


筆者

塩原俊彦

塩原俊彦(しおばら・としひこ) 高知大学准教授

1956年生まれ。一橋大学大学院経済学研究科修士課程修了。学術博士(北海道大学)。元朝日新聞モスクワ特派員。著書に、『ロシアの軍需産業』(岩波書店)、『「軍事大国」ロシアの虚実』(同)、『パイプラインの政治経済学』(法政大学出版局)、『ウクライナ・ゲート』(社会評論社)、『ウクライナ2.0』(同)、『官僚の世界史』(同)、『探求・インターネット社会』(丸善)、『ビジネス・エシックス』(講談社)、『民意と政治の断絶はなぜ起きた』(ポプラ社)、『なぜ官僚は腐敗するのか』(潮出版社)、The Anti-Corruption Polices(Maruzen Planet)など多数。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

塩原俊彦の記事

もっと見る