「癒やし」としてのバイデン大統領 命運を握る「最初の100日」の成果
高齢のバイデン氏に許された時間は少ない。トランプ時代の分断の「統合」にどう臨むか
吉崎達彦 ㈱双日総合研究所チーフエコノミスト
息詰まる接戦だった大統領選挙
あらためて、昨年11月3日に行われた大統領選挙の結果を振り返ってみよう。
バイデン氏と副大統領候補のカーマラ・ハリス氏のチケットは、一般投票で8126万、8867票という史上最高得票であった。これに対してドナルド・トランプ氏とマイク・ペンス氏は7421万、6747票と、これまた史上第2位の得票数であった。その差は約4.45%である。
この差をどう見るかは諸説ありそうだが、息詰まる接戦と言っていいのではないだろうか。いくら現職大統領が有利な立場であるとはいえ、トランプ氏が前回2016年選挙から1000万票以上も上積みできるとは、少なくとも筆者には想定外であった。

カーマラ・ハリス氏=2020年3月9日、米ミシガン州デトロイト
選挙人の数でいえば、バイデンが306人で後者は232人である。これを見ると大差であるが、ここには例の選挙人マジックがある。アリゾナ州はわずか1万457票差(0.30%差、選挙人数11)、ジョージア州は1万1779票差(0.23%差、選挙人数16)、そしてウィスコンシン州は2万682票差(0.63%差、選挙人数10)であった。
これら3州がひっくり返れば、選挙人数はともに269人で両者は同点となっていた計算となる。3州合計でその差はわずか4万2418票。トランプ氏はジョージア州の選挙を管理するラッフェンスバーガー州務長官に電話して、「どこかで1万1780票を見つけてこい!」と凄んだそうだが、確かにそんな気分になるほどの僅差だったのである。
思えば1年前、昨年2月初旬の米民主党は惨憺たる状況であった。予備選挙の緒戦、2月3日に行われたアイオワ州党員集会では、開票結果の集計アプリに不具合が発生し、誰が勝利者なのかわからない、という不祥事が発生した。若きピート・ブティジェッジ市長(サウスベンド市)と左派のバーニー・サンダース上院議員が接戦であったが、勝利演説の機会がないままに一夜は明け、そのまま投票は「なかったこと」にされた。
その翌日は一般教書演説が予定されていて、トランプ大統領は例によって言いたい放題、やりたい放題で、たっぷり1時間半かけて自画自賛に終始した。ナンシー・ペローシ下院議長は背後の席で我慢して聴いていたが、最後には手元にあった演説の原稿をビリビリと4回も破ったほどである。
さらにその翌日の2月5日は弾劾裁判の評決が行われ、トランプ大統領の無罪が確定した。この週末に筆者は、東洋経済オンラインに「トランプ大統領の笑いが日本まで聞こえてくる」と寄稿したものだ 。この時点では、「トランプ再選が濃厚」と見る向きが多数を占めていたはずである。
あえてバイデン氏を選んだ民主党
こうした中で、民主党内で当初は「弱い候補者」と見られていたジョー・バイデン元副大統領の存在が急浮上する。それまでバイデン氏は何より高齢に過ぎ、失言が多く、候補者討論会ではしばしばやりこめられ、選挙資金の集まり具合でも後塵を拝していた。
それでも「お人柄」もあって、いくら叩かれても不思議と人気が落ちなかった。なにしろオバマ政権の副大統領を8年間、その前は上院議員を36年間も務めている。新鮮味はないけれども、無視できるような候補者でもなかったのである。
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