県民に届く言葉なしに、本島南部の土を一粒も使うべきでない
2021年01月31日
米軍基地の造成に、かつての米国との激戦地であり、今も日本の民間人や兵士の骨が残る土が使われかねない。矛盾に満ちた動きを日本政府がさらす現場は、またも沖縄だ。
菅義偉内閣の欺瞞を大きく三つ指摘する。
米軍基地の造成とは、日本政府が沖縄県の本島中部にある米軍普天間飛行場(宜野湾市)は危険だとして、北部に移そうと進めている辺野古沖(名護市)での滑走路建設のことだ。県は、沖縄に集中する在日米軍基地を、県内でたらい回しにするものだとして反対している。
かつての米国との激戦地とは、太平洋戦争末期に日本で住民を巻き込んだ唯一の地上戦があった沖縄本島、とりわけ日本兵と住民が追い込まれた南部(糸満市など)のことだ。沖縄戦では、県によると20万人以上が亡くなり、うち県民は9万4千人、日本軍関係者は9万4千人(県外出身6万6千人)、米軍関係者は1万2千人とみられる。
沖縄をめぐるこの二筋の苦難を昨年4月、日本政府はわざわざ絡めてしまった。普天間移設工事で辺野古沖の海底に軟弱地盤が見つかったとして、地元自治体として埋め立ての可否を判断する沖縄県に対し、設計変更の承認申請書を提出した。当時の安倍内閣で辺野古沖への移設を推し進めた官房長官は菅義偉氏、防衛相は河野太郎氏だった。
防衛省沖縄防衛局長名での申請書は、ちょうど後継の菅内閣が発足した昨年9月から閲覧が可能になり、軟弱地盤対策にとどまらない変更点が明らかになった。そこに含まれていたのが、埋め立て用土砂である「岩ズリ」(岩石の破砕でできる細かい石)の調達先の候補として、沖縄本島の「南部地区(糸満市、八重瀬町)」を加えるという内容だった。
沖縄本島南部では、かつて激戦地となった糸満市を中心に、約3100haが日本唯一の戦跡国定公園に指定されている。戦没者を弔う「平和の礎」や「ひめゆりの塔」などがあり、今も遺骨や不発弾が見つかる。公園内は自然公園法により開発を規制されているが、大半は県への届け出で済む「普通地域」にあたり、畑や住宅地が広がる一方で採石場も点在する。
それでもなぜわざわざ、沖縄県が反対する米軍基地造成に、戦没者の遺骨が取り上げ切れていない本島南部の土を使おうとするのか。昨年秋以来、遺族や遺骨収集ボランティアが批判の声を上げ、地元各メディアが報じてきた。朝日新聞那覇総局の記者は最近の本島南部の状況について、このように伝えている。
朝日新聞デジタル 1月30日公開記事 「ある日ガマが鉱山に 遺骨混じりの土を辺野古工事に?」
国会でも政府の姿勢がただされてきた。そうした議論と防衛省などへの私の取材からは、菅内閣の三つの欺瞞が浮かび上がる。
1月27日の参院予算委員会では、こんなやり取りがあった。
立憲民主党・白真勲氏 辺野古新基地建設事業に関わる土砂の採取先として沖縄本島南部を入れたのは、どういう意味ですか。
岸信夫防衛相 変更承認申請書の作成にあたり採石業者に広くアンケートをしたところ、出荷可能との回答を得た中に南部が入っていた。前回の(2013年の)承認申請でも同じようにアンケートをしたが南部は入っておらず、今回(前回から)年数も経っていたので改めてアンケートをしたということです。
つまり、今回の設計変更の承認申請にあたり、改めて採石業者にアンケートをしたところ、沖縄本島南部からも出荷できるという回答が得られたので、調達先の候補に加えたという説明だ。岸防衛相は「まだ南部から採取すると決まったわけではない」とも述べ、候補地に過ぎないと強調した。
最初の欺瞞はこの説明ぶりだ。
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