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「ジャスミン革命」から10年のチュニジア、再び若者のデモが拡大

[20]高い失業率、コロナ禍による経済危機で「体制変革」の声

川上泰徳 中東ジャーナリスト

 2011年の「アラブの春」で強権体制が倒れた国の中で、唯一、現在でも民主的な政治が続いているのがチュニジアである。エジプトは軍事クーデターで軍主導政権となり、リビアとイエメンでは内戦が続いている。しかし、チュニジアはコロナの蔓延によって、経済が悪化し、失業率も上昇し、「ジャスミン革命」と呼ばれた民主化革命から10年たった2021年1月、外出禁止令を破って街に繰り出す若者たちのデモが吹き荒れている。

 チュニジアの新型コロナの確認陽性者は1月28日時点で20万2323人、死者は6446人である。だが人口1180万であることを考えれば、日本の人口換算で200万人の陽性者と6万5000人の死者がいることになる。

チュニジアの新型コロナウイルス感染状況(2021年1月28日時点) 出典:世界保健機関拡大チュニジアの新型コロナウイルス感染状況(2021年1月28日時点) 出典:世界保健機関

 チュニジアでは、2020年3月初めに最初の感染者が確認された後、移動制限や積極的なPCR検査で、9月1日時点では陽性者3963人、死者80人と感染を抑え込んでいた。だが後述するように、9月から急激に増加したことに特徴がある。

 サイード大統領は3月下旬から都市封鎖を実施した。外国との行き来を停止し、モスクやカフェ、マーケットも閉鎖した。その結果、5月半ばには新規感染者0となり、徐々に移動制限や経済活動を解除した。

 米シンクタンク「ブルッキングス研究所」のサイトに掲載された同ドーハ・センターの論文によると、第1波を抑え込んだ要因として、①中東北アフリカ地域で最も進んだ医療体制、②強固な感染予防体制、③地方レベルでの行政と市民組織、政党組織の協力――などとし、「感染者が少なかったことで、感染に対応することができた」としている。

 市民の協力の例としては、医療機器を製造している民間企業が自主的に労働時間を2交代制にして毎日5万枚のマスクを作ったり、ある市民組織の若者たちが医療スタッフのために1日1500枚のフェイスシールドを作る動きがあったとしている。

 チュニジアでは2019年9月-10月に議会選挙、大統領選挙があり、議会選挙では217議席に20政党と独立系候補が議席を得た。最大政党である穏健イスラム派の「ムスリム同胞団」系の「アンナハダ運動」でさえ、全議席の4分の1弱にあたる52議席であり、それだけ政治に参加する政党や組織が多いということである。

 強権体制がはびこる中東では、ほとんどの政府が情報と権限を独占し、政党や市民組織は排除されることが多い。その点、「ジャスミン革命」以降、民主主義と市民参加が実践されているチュニジアでは、コロナ禍で政府や地方行政に対して政党や市民組織が協力するネットワークが機能したということだろう。

2011年1月の「ジャスミン革命」から10年、チュニジアではまた若者たちのデモが拡大したという=2011年1月21日、チュニス拡大2011年1月、若者たちが民主化を求めた「ジャスミン革命」。あれから10年、チュニジアではまたデモが再燃しているという=2011年1月21日、チュニス

筆者

川上泰徳

川上泰徳(かわかみ・やすのり) 中東ジャーナリスト

長崎県生まれ。1981年、朝日新聞入社。学芸部を経て、エルサレム支局長、中東アフリカ総局長、編集委員、論説委員、機動特派員などを歴任。2014年秋、2度目の中東アフリカ総局長を終え、2015年1月に退職し、フリーのジャーナリストに。元Asahi中東マガジン編集人。2002年、中東報道でボーン・上田記念国際記者賞受賞。著書に『シャティーラの記憶――パレスチナ難民キャンプの70年』(岩波書店)、『イラク零年――朝日新聞特派員の報告』(朝日新聞社)、『現地発 エジプト革命――中東民主化のゆくえ』(岩波ブックレット)、『イスラムを生きる人びと――伝統と「革命」のあいだで』(岩波書店)、『中東の現場を歩く――激動20年の取材のディテール』(合同出版)、『「イスラム国」はテロの元凶ではない――グローバル・ジハードという幻想』(集英社新書)など。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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