「ゲームストップ騒動」を読み解く
2021年02月03日
ウォールストリートで起きた、ゲーム機やコンピューターゲーム、家電製品などの小売業者、ゲームストップ株の乱高下や、その株式購入に個人投資家が使った株取引プラットフォームのロビンフッド・マーケッツなどの混乱について、多くの読者は理解に苦しんでいるのではないか。
そこで、その昔、日本経済新聞社の証券部に在籍したことのある筆者が米国で何が起きているのかを解説してみよう。なお、この際参考にしているのは、「ゲームストップ:レディット・ハムスターがウォール街のデブ猫に反発した話」というロシア語で書かれた記事である。
簡単に言えば、大金持ちである「デブ猫」を懲らしめるための個人投資家たる「ハムスター」による反乱がある程度、成功するという事件が起きたと言える。その背後には、パンデミック対策で世界中の国々が大量のヘリコプターマネーをばら撒き、その過剰資金が株式相場にもあふれ、カジノ資本主義が活況を呈してることへの厳しい警告がある(ヘリコプターマネーについては拙稿「新型コロナ対策 日本の喫緊の課題は「ヘリコプターマネー」導入か」を参照)。
まず、今回の出来事の対立の構図をしっかりと押さえなければならない。悪役は明らかに「ヘッジファンド」と、そこに巨額の資金を預けて利益をあげようとしてきた大金持ちである。
ヘッジファンドは金融派生商品(デリバティブ)など複数の金融商品に分散化させて、高い運用収益を得ようとするものだ。株式の空売りもできる。ただし、ハイリスク・ハイリターンであるため、規制当局は一般ユーザーへの投資勧誘を禁止しており、ヘッジファンドと組めるのは「適格投資家」、すなわち、事実上、「大金持ち」だけだ。
ヘッジファンドやその投資家は、資金力にものを言わせて、空売りなどで巨額の利益をあげてきた。米国のSNSのレディット(Reddit)には、株式・オプション取引を議論するための場として「サブレディット」と呼ばれる仕組みがあり、そのなかのWallStreetBetsフォーラムに多くの参加者が集い、彼らの多くは、こうした金持ちを「デブ猫」と呼んで蔑んできた。
この参加者数は2021年1月で750万人を超えた。彼らの多くは米国、カナダ、オーストラリアに住む「オタク」であると考えられている。いわば、「ハムスター」のようなちっぽけな個人投資家が「デブ猫」の横暴に挑んだのが今回の事件であると言えるだろう。
こうした「デブ猫」の代表格で、年初に125億ドルを運用していたヘッジファンド、メルヴィン・キャピタル・マネジメントは、今回の出来事で大打撃を受ける。
同社は前述したゲームストップ株に空売りをかけ、過去1年間にわたってショートポジション(保有しない株を借りて、売り建てている状態)を積み上げてきていた。これが意味するのは、ゲーム機などの販売がストリーミングサービスの広がりで不振となり、業績が悪化していたゲームストップ株がさらに下落することを見越して、同株価が下がれば下がるほど安値で買い戻せるので、借りた株価とその安値との差額が利益になる、ということだ。ゆえに、「デブ猫」はどんどん空売りをして価格の下落を促す。まさに「他人の不幸に乗ずる」のである。
これに「不条理」を感じ取ったのが「ハムスター」たちだ。他人の不幸をもてあそぶどころか、喜ぶ連中に鉄槌を下す必要があるとして、株価を引き上げることで「デブ猫」と対決することにしたのである。そのために利用したのがオンライン取引アプリ、ロビンフッドで
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