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「プーチン宮殿」だけではないプーチンの正体

「マグニツキー事件」はじめ複数の変死、殺害事件の黒幕か

塩原俊彦 高知大学准教授

 ロシアの反政府勢力を代表する人物で、ロシアの治安機関によって毒殺されかけたアレクセイ・ナヴァーリヌイ(ナワリヌイの表記は使わない)は2021年1月17日、治療を終えたドイツからロシアに帰国した。その直後、執行猶予中の条件に違反したとして拘束されたが、19日になって、「プーチンのための宮殿:もっとも大規模な賄賂の歴史」というビデオがユーチューブにアップロードされた。彼自身が登場する約1時間53分におよぶ告発のなかで、プーチンがいかに腐敗しているかを語っている。すでに視聴回数は1月30日時点で、1億回を超えている。

 このビデオがきっかけとなって、1月23日には、ロシアの100を超す都市で、ナヴァーリヌイの釈放を求めるデモが行われた。デモ参加者中、全国で3770人、うちモスクワで1481人が拘束されたとの情報がある。人々は、「プーチン、泥棒」(Путин, вор!)と叫び、多くの若者がプーチンへの怒りをあらわにした。社会人類学者がモスクワでのデモ参加者359人を無作為にサンプル調査したところ、42%が今回初めてデモに参加したことがわかったという(2021年1月24日付の「ニューヨーク・タイムズ電子版」を参照)。同チームが2019年のモスクワでの抗議行動を調査した際には、17%だったから、今回、若者中心に「プーチンが泥棒である」との認識がにわかに広まり、抗議行動となって表面化したと推測される。

 考えてみると、ソ連が崩壊して30年になる。プーチンがはじめて大統領になってから20年以上が経過した。若い人々の多くはソ連時代の悲惨さを知らない。プーチンが権力奪取過程で犯してきた犯罪まがいの数々の悪徳も仄聞すらしていないかもしれない。ロシアの若者がこんな状況だとすれば、日本の読者のなかにも、プーチンの正体について知らない人がまだまだ多いのではないか。こんな想いから、ここでプーチンの正体を改めて詳しく解説してみたい。

拡大プーチン氏の私邸だとされる邸宅。ロシア南部クラスノダール地方の黒海沿岸にあり、周囲の森や奥の建物も私邸の敷地だという=2021年1月19日、ユーチューブに公開された動画から

「周知の事実」だったプーチン宮殿

 2012年1月に刊行した拙著『プーチン2.0:岐路に立つ権力と腐敗』のなかには、「第4章 プーチンの腐敗」として、その第2節で「プーチン宮殿」が登場する。本当は、プーチン宮殿の存在はもう10年ほど前には周知の事実であったのだ。だが、ロシアでも日本でも、大切なことは繰り返さないとすぐに忘れられてしまうようだ。

 プーチン宮殿建設プロジェクトは2005年からはじまった。黒海に面した絶景をながめられる場所に、カジノや劇場まである宮殿が建設されたのだ。「一説には、2014年のソチ冬季五輪の際、賓客をもてなすために使用されるかもしれない」という説を、拙著に紹介しておいた(現在の説明では、ホテルに改装中という)。注意すべきなのは、この宮殿以外にも2011年ころの時点で、プーチンの住居が26もあるとみられていたことである。当時、首相だったプーチンには、公的に認められた住居がモスクワとソチにあったが、それ以外に国家として公式に名簿に掲載された住居が10カ所あった。計算上、それ以外にも14もの住居があり、加えてプーチン宮殿を建設したことになる。

 ナヴァーリヌイのビデオには、宮殿の近くにブドウ園があり、ワイン製造工場が整備されていることがわかる。プーチンは、このビデオ公開後に開催された学生とのビデオ会議のなかで、「宮殿を所持していた疑惑についての調査映像が流れています。大統領、これは本当ですか?」と尋ねられて、「まずあなたの質問にはこう答えたい。私の財産としてそこで示されたものは私にも私の近親者にも属したことはない。絶対にない。これが第一だ」と答えた。そのうえで、日本の菅義偉首相と違って、プーチンは余計な話も披露している。

 「そこで見たすべてのもののなかで、私が興味をもったのは一つだけだったが、ビジネスではなく、ビジネスとしてではなく、ある種の活動としてのもの、それはワイン造りだ。とてもいい活動と思うし、立派な活動だと思う。私の良き知人の一人と彼自身のパートナーがそこにおり、パートナーは亡くなったが、その持ち分は息子に相続された。彼らは小さな企業をしていて……」と話したあと、「ビジネスとしてではなく、活動の一種として、いつかはやってみたいと思っている」とまで語った。

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筆者

塩原俊彦

塩原俊彦(しおばら・としひこ) 高知大学准教授

1956年生まれ。一橋大学大学院経済学研究科修士課程修了。学術博士(北海道大学)。元朝日新聞モスクワ特派員。著書に、『ロシアの軍需産業』(岩波書店)、『「軍事大国」ロシアの虚実』(同)、『パイプラインの政治経済学』(法政大学出版局)、『ウクライナ・ゲート』(社会評論社)、『ウクライナ2.0』(同)、『官僚の世界史』(同)、『探求・インターネット社会』(丸善)、『ビジネス・エシックス』(講談社)、『民意と政治の断絶はなぜ起きた』(ポプラ社)、『なぜ官僚は腐敗するのか』(潮出版社)、The Anti-Corruption Polices(Maruzen Planet)など多数。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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