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個人重視・支え合いの国家方針への転換は、民主主義の再生から始める

田中信一郎 千葉商科大学基盤教育機構准教授

 総選挙で新しい政権が誕生し、現在の国家重視・自己責任の国家方針から、個人重視・支え合いの国家方針に転換した場合、どのような政策を展開すればいいのか。

 この視点に立つ議論としては、山口二郎他『日本のオルタナティブ』(岩波書店)や金子勝他『メガ・リスク時代の「日本再生戦略」』(筑摩書房)、木下ちがや『「社会を変えよう」といわれたら』(大月書店)がある。筆者も『政権交代が必要なのは、総理が嫌いだからじゃない』(現代書館)で、主に経済政策について論じている。様々なリスクが相互に絡み合って膨張し続けている現状を踏まえれば、その方策について、国会議員を含めてさらなる重層的な公論が求められるだろう。

 一方、現実的に考えると、新政権の政策的な自由度は極めて狭い。個人重視・支え合いの国家方針に転換するとしても、長年にわたって国家重視・自己責任の国家方針に転換し、とりわけ安倍・菅政権によってそれが加速してきた。既存の多くの政策や社会システムが、その国家方針を前提として修正されているため、白地のキャンバスに絵を描くようには政策を展開できない。

 とりわけ、人口減少、経済の低成長、気候変動という強固で構造的な制約要件が存在する。これらの制約要件は、何らかの特効薬でパッと解消できるものでも、身をかがめていれば自ずと去っていくものでもない。真正面から対峙しなければ、人類の存続や日本社会の盛衰を左右しかねない制約である。これら制約要件に伴うリスクを回避しようとすれば、政策の自由度はさらに狭くなる。

 そのため、新たな国家方針を具現化する政策を議論したとしても、一定の範囲に収束するだろう。その範囲は国家方針の転換が遅くなるほど狭まっていき、やがて取り得る政策手段がなくなる。そのとき、日本や世界がどうなっているのか、少なくとも人口と気候の将来推計からすれば、幸せな社会でないことだけは疑いない。

 そこで、本稿を含めて複数回にわたり、個人重視・支え合いの国家方針を具現化する主要な政策について論じる。厳しい制約要件と様々なリスクの網をかいくぐるには、どのような政策を展開すればいいのだろうか。

民主主義を再生するための政策

 個人重視・支え合いの社会において、決定的な役割を果たすのは「政府」である。ここでいう政府とは、国の行政府はもちろんのこと、立法府である国会、司法府である裁判所、都道府県や市区町村の地方自治体、それらの活動を支える独立行政法人などの団体を抱合したシステムを指す。

 個人重視の視点では、政府が民主主義に基づいて運営され、個人の社会的な自由を擁護する主体となる。個人の社会的な自由を確保するためには、個人以外の主体(政府や企業など)からの自由の侵害を防止するだけでなく、個人間での自由の侵害を調整し、出生・境遇に基づく格差を是正し、すべての人の意欲と能力が発揮できる状態を確保しなければならない。それを担うのが政府であり、どのような方法でその状態を確保するのか、すべての人の参画で合意するのが民主主義である。

 支え合いの視点では、政府が人々の間を民主主義に基づいて仲介し、代理人として支える行為(公共サービス)を提供する主体となる。仲介して支える行為を提供するには、どのようにどれくらい公共サービスを提供するのか、その費用や資源をどのように調達するのか、合意を形成しなければならない。

 その政府の基礎となるのが、人々からの信頼である。政府が信頼を得ていなければ、個人重視・支え合いの社会は決して実現しない。不透明な運営や不公正な公共サービスが横行していれば、人々は政府を不要と考え、公務員や公共サービスに従事する人々を攻撃し、政府の縮小を求めるようになるからだ。

 一方、国家重視・自己責任の社会においては、経済的な価値を最優先する司令塔としての政府が必要になるため、民主主義は必然的に二の次となる。実際、安倍・菅政権では、森友学園、加計学園、自衛隊記録、桜を見る会、検察庁法改正案など、政府の民主的な統制を骨抜きにする問題が噴出している。チリのピノチェト政権、イギリスのサッチャー政権、アメリカのレーガン政権など、同様に新自由主義を基本とする内外の政権でも、多かれ少なかれ民主主義の後退が問題になっている。

拡大サッチャー英首相とレーガン米大統領=1983年9月29日、ワシントン mark reinstein / Shutterstock.com

 政府への信頼も重視されない。むしろ、国家重視・自己責任の新自由主義政権は、率先して政府の非効率性を非難し、公務員などを攻撃し、減税を求めて、政権維持の原動力とする。政権の不祥事すら、政府の問題に転嫁しようとする。例えば、菅義偉首相と自由民主党は、日本学術会議の任命を恣意的に拒否した問題に対し、学術会議のあり方の問題にすり替えて、議論を誘導している。

 そのため、国家方針を転換するならば、政府への信頼を回復するため、民主主義を再生するための政策(法令・制度・先例)を最初に講じる必要がある。これを後回しにして、経済政策や社会政策を展開しても、政府を信頼していない人々は、それらを税金のムダと考えてしまう。それどころか、人々に遍く展開する公共サービスと捉えず、新政権の支持者に対する利益供与と考えてしまうかもしれない。実際、2009年に民主党政権が成立した際、民主党の中に、自民党の支持団体を民主党支持に付け替えようとする動きもあった。それによって、日本医師会のように支持政党を一時的に変えた団体もあった。

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筆者

田中信一郎

田中信一郎(たなか・しんいちろう) 千葉商科大学基盤教育機構准教授

博士(政治学)。国会議員政策担当秘書、明治大学政治経済学部専任助手、横浜市地球温暖化対策事業本部政策調査役、内閣府行政刷新会議事務局上席政策調査員、内閣官房国家戦略室上席政策調査員、長野県企画振興部総合政策課・環境部環境エネルギー課企画幹、自然エネルギー財団特任研究員等を経て、現在に至る。著書に『政権交代が必要なのは、総理が嫌いだからじゃない』『信州はエネルギーシフトする』、共著に『国民のためのエネルギー原論』『再生可能エネルギー開発・運用にかかわる法規と実務ハンドブック』などがある。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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