完全に世界から取り残される前に、この醜悪な現実に真剣に向き合わなければならない
2021年02月04日
「女性がたくさん入っている理事会は時間がかかる」「(女性は)競争意識が強い」――。
コロナ禍により閉塞した日本で、またしても森喜朗元総理の発言が物議を醸している。たびたび女性差別発言を繰り返してきた森元総理だが、今回は内容もさることながら、さらに間が悪い。
世界中の国々が参加、注目する平和の祭典であり、人種や差別を越えるという理想の実現を目指したオリンピックを挙行するための組織の長、しかも元首相が十分な検証もなく、印象のみで、性差別的発言をしたことで国家的ダメージも免れないものであろう。
まず、今回の森元総理発言の問題部分を検証してみよう。
「女性がたくさん入っている理事会は時間がかかる。女性は優れており、競争意識が強い。誰か一人が手を挙げて言うと、自分も言わないといけないと思うんでしょうね。それでみんなが発言される」
簡単に言えば、「女の会議は長い」ということだ。
ここで例に挙げられた日本ラグビー協会の女性委員は5人だ。筆者の友人の谷口真由美氏もその1人だが、確かに論客だ。適当を好まず、「痛いところ」を指摘するから、それまでそんなことを指摘された経験がない男性理事がひるむことも想像には難くない。しかし、得てして話は短い。たとえばある一定の地位以上にある男性にありがちな、自分がいかに優秀か等の自慢話をだらだらしゃべることはない。議事録を精査したわけではないが、もし女性理事の話が長くても、谷口氏に限らず、本人の努力によって獲得した独自の視点から、男性理事では指摘できない部分を指摘しているものだろう。逆に言えば、組織はそれを期待して委員に指名したのだろうから、むしろ歓迎すべきことなのではないか。
ところが、その発言を森氏は「女性同士の競争意識から出たもの」とする。つまり、「女の会議が長い」のは女同士の縄張り争い、功名争いにある、と断言しているのである。
バルセロナ五輪柔道銀メダリストの溝口紀子氏も「女性は会議が長い」という発言以上に「女性は競争意識が強い」と発言したことに注目している。そして「女は黙っとけとも取れるし、会議で女性が手をあげるのは、競争意識ではなく、問題意識が高い」としたうえで、森氏が発した「競争意識」という言葉によって、女性のみが他の委員に対して敵対心、警戒心を持つというように変換されていることに違和感を示している。
また、「発言の時間をある程度、規制をしていかないとなかなか終わらない」という発言については「女性理事の問題ではなく、会議進行役の手腕によるものだ」と指摘している。たしかに会議の議長は名誉職の側面もあり、事前に用意された進行からずれるととたんに仕切りができなくなる「菅首相的」な議長にたびたび出くわした経験のある人は少なくないだろう。
そもそも、日本において、出席者の多くが男性で占められる会議は大抵、たいした議論も起こらず、筋書き通り、まさに予定調和で終わる。なぜならば、その日の議題は実は会議の場でなく、「夜の会食」のはしごによって既に大筋は話し合われ、結論が出ているからである。
政界も同様で、映し出される議場で寝ている議員の多くは男性だ。それはそうだろう。彼らは、夜中まで、2回、3回と「会食」をはしごしているのだ。昼間の会議の何倍もの労力とお金を使って、表の会議の根回しを行っているのである。
こうした「会食」の類のたいていが「組織の金」を使っての飲食である。奢る方も奢られる方も自らの懐は痛まないというセコさ。政界で言えば、自民党政権下でたびたび問題となる官房機密費もあれば、民主党時代においても、国体関係者から他党の議員と「飲んでこい」と金を渡されて、飲み食いを行ったと証言する元議員もいる。そこで「なあなあ」の関係を作ることが会議をうまく回すことと直結するのである。
女を侍らせ、タダ酒を飲みながら、互いの利権の分配を決める現場に、「もの言う女性たち」が来られると面倒――。
森喜朗元首相の発言は、
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