男も女もしばるジェンダーバイアスから自由になる時代に
2021年02月06日
東京五輪パラリンピック大会組織委員会の森喜朗会長(元総理)の日本オリンピック委員会(JOC)臨時評議会(2月3日)での発言が、国内外のメディアで取り上げられて、「日本はやっぱり女性後進国のように思われて残念」、「オリンピックの精神に反している」など、さまざまな批判の声が上がっています。“老害”だから辞任しろ、という運動も……。
「女性がたくさん入っている理事会の会議は、時間がかかります」「女性っていうのは競争意識が強い。誰か1人が手をあげていうと、自分もいわなきゃいけないと思うんでしょうね。それでみんな発言されるんです」などと発言したというニュースを聞いた時、思わず、森さん、また、やっちゃったな、と笑っちゃいました。
なにしろ、総理在任中の2000年、総選挙の際して無党派は「寝てしまってくれればいいい」と言った人です。総理や政治家は、投票を勧める立場でなければなりません。本心では、野党に投票しそうな無党派には投票に行って欲しくないと思っていても、口に出してはいけないでしょう。なんて、正直な人でしょう。
そのほかにも、森さんの失言というか、本音の問題発言は何度もメディアを賑わしてきたので、「女性の多い理事会の会議は時間がかかる」発言も、またか、と思ったわけです。
スポーツ界は、根性論が幅をきかし、選手は男性で女性はマネージャーなどのケアワークが多い部活もあり、どちらかと言えば、男社会の風潮が色濃く残っている世界にみえます。ジェンダーバイアスに日々接していて、それをなんとか取り除こうと声を上げている女性たちにとって、今回の発言には怒りと残念な思いが吹き出たのも当然でしょう。
ただ私は、森さん、よくぞ言ってくれた、とも思ったのです。
会議の席で発言すると、「だから、女は困る」「いちいち、説明しなくても、議長がそういったんだから、いいじやないか」という形で議論を遮られる。女は黙っていろと言わんばかりの言動を投げられた女性は多いはずです。森さんだけでなく、女性が意見を言う場にいることを好まない男性は少なくない。
本音は、みな森さんと似たりよったり。だから、森さん、また、やった、というより、よく言ってくれた、という思い。逆説的ですが、女は困るよなという本音が、女性たちの怒りを呼ぶだけでなく、スポーツ界の「昭和の男的世界」を変えなくちゃという動きを加速させることができるからです。
実際、「森発言」はさっそく世界から揶揄(やゆ)され、非難されています。日本は外圧に弱いですから、スポーツ界がこれで少しは、多様性を重んじる方向に変わるかもしれない。男たちの本音を体現した森発言が、良いきっかけになればと思います。
こんな森さんですが、私とは縁もあります。
国会議員だった時、母子家庭の母親と子どもたちが困窮しているのをなんとかしたい、母親の就労支援ができないかと、議員立法に奔走したことがありました。まだ、子どもの貧困は話題になっておらず、子ども食堂もなかった頃です。
国会議員の中には、勝手に離婚しておいて、そんな母子家庭に支援などいらないと思っている人がいて、思っているだけでなく、言葉に出す人もいました。そういう人が、議員立法の成否を握る地位にいて、あと何日かで国会の会期が終わり、廃案になってしまうという時、私は森さんに会いに行ったんです。
森さんは、離婚せざるを得ない女性たちの状況、女性が自立して食べていくのが厳しいこの日本の状況に耳を傾け、就労支援の必要性に理解を示してくれました。なにより、母親が大変だと子どもたちに影響を及ぼすことを案じていました。反対している議員とかけあい、数日後、法案は無事、国会を通過しました。
森さんを庇(かば)うつもりはありません。ただ、ジェンダーバイアスをなくしたいと言い続け、こういう連載もしている身ではありますが、ジェンダー平等に反するような発言といえども、それを封じ込める風潮に、私は抵抗を覚えます。「モノ言えば唇寒し」の状況になることのほうが怖い。
さて、森さんはJOCの臨時評議会で、組織委員会の女性について「みんなわきまえておられて」とも発言したそうで、これまた問題になっています。
「わきまえる」というのは、まわりに忖度して、あまり自己主張しないという意味にもなる。公平性を重視して、ルールを守り、周りの人と協調するのが、「わきまえた人」の取る行動だとは思いますが、大事なことを決める会議で議論しなきゃいけない時、おとなしく何も発言しないのはいいとは思えません。しかし、ものを決めている人からすれば、なんであれ反論する人は「わきまえない人」と思われてしまうのでしょうか。
私もまた、わきまえない女性と思われていたのでしょう。
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