花田吉隆(はなだ・よしたか) 元防衛大学校教授
在東ティモール特命全権大使、防衛大学校教授等を経て、早稲田大学非常勤講師。著書に「東ティモールの成功と国造りの課題」等。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
民の痛みを感じとれず、原稿棒読み。これでは誰もついていかない
有能なナンバーツーは、必ずしも有能なナンバーワンではない。ナンバーツーに特に求められるわけではなく、しかしナンバーワンには欠かすことができない資質とは何か。とりわけ危機にあって、ナンバーワンが備えなければならない必要不可欠な資質とは何か。
それは、国民の方を向くということだろう。
ナンバーツーは、永田町の遊泳術を身につけ、霞が関の役人を人事で縛り上げればそれで有能と評される。朝夕、有力者と会食を共にし、そこからさまざまなアイデアを吸い上げ政策にまとめ上げれば政策通の評価を得る。国家観や大局観がなくとも、個別の政策を積み上げれば立派な業績だ。
しかし、ナンバーワンはそれでは務まらない、就中、危機の時のナンバーワンはそうはいかない。
危機の時、国民はリーダーに命運を託す。命運を託すに足りずと思えば、誰もリーダーの言うことに従おうとはしない。しかし、危機に際し、リーダーは国民を束ねていかなければならない。国民に訴えかけ、その共感を得、国民を一つ方向に束ね、共同して脅威に立ち向かっていかねば国民の命運が損なわれる。
ナンバーツーの時、如何に政治の「技術」に長けていようと、ナンバーワンになり、政治の最も重要な要素である「国民との接点」に於いてその資質が問われるようなら、それは危機のリーダーとして致命的といわざるを得ない。
我々は危機に直面した時、どういうリーダーなら我々の命運を託してもいいと思うだろう。
「国民の痛みを肌で感じ」「しかし、大局的に判断すればこの方向に進むしかなく」「それを国民に分かりやすく説き、国民がそれを納得し、ついていこうという気になる」、そういうリーダーでなければ、我々は、難局に当たって全てを託そうとは思わない。つまり、ナンバーワンは「国民の方を向いて」いなければならない。