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中国軍艦レーダー照射で控えた官邸への「速報」 局長になってまた大事件 

連載・失敗だらけの役人人生⑤ 元防衛事務次官・黒江哲郎が語る教訓

黒江哲郎 元防衛事務次官

拡大中国海軍護衛艦レーダー照射事件を伝える2013年2月6日付の朝日新聞朝刊1面

2017年まで防衛省で「背広組」トップの事務次官を務めた黒江哲郎さんの回顧録です。防衛問題の論考サイト「市ケ谷台論壇」での連載からの転載で、担当する藤田直央・朝日新聞編集委員の寸評も末尾にあります。

中国軍艦がレーダー照射

 民主党政権末期の2012年(平成24年)9月に運用企画局長に任命され、部員、課長に次いで防衛省の運用部門において三度目の勤務をすることとなりました。

 この年9月に我が国政府が尖閣諸島を国有化した直後から、これに反発した中国が同島周辺海域における政府公船の活動を活発化させました。さらに、11月に習近平が正式に最高指導者の座につくと、中国は従来の「韜光養晦」と称される爪を隠して能力を蓄える路線を転換し、国際秩序に対して正面から挑戦する動きを見せるようになりました。12月13日には、前日の北朝鮮による弾道ミサイル発射事件直後のスキを突くようにして、中国海警局の航空機が中国機として初めて尖閣諸島周辺の我が国領海上空に侵入しました。

 そうした中、翌2013年(平成25年)1月30日に東シナ海で中国海軍艦艇を監視していた海上自衛隊の護衛艦「ゆうだち」が、相手の中国艦からFCS(火器管制)レーダーの照射を受けるという事案が発生しました。

拡大2013年の中国海軍護衛艦レーダー照射事件の説明=朝日新聞社
 FCSレーダーは、簡単に言えば火器の照準を定めるためのものであり、たとえ照射する側にその気がなくとも照射された側は攻撃を受けると誤解する恐れが十分にあります。双方が互いの意図を取り違えれば、最悪の場合武力衝突にもつながりかねません。FCSレーダーの照射は、それほど危険なことなのです。通常、この種の外交問題に発展するような重要な情報は速やかに防衛大臣・総理まで報告されますが、本件はそのようには扱われませんでした。

 実は、これより10日ほど前の1月19日、同じく東シナ海で中国海軍艦艇を監視していた海上自衛隊のヘリコプターが相手の中国艦からFCSレーダーを照劇されたとの報告が上がって来ていたのです。この情報は速やかに防衛大臣・総理まで報告され、防衛大臣が照射の事実を公表して中国に抗議する手はずとなっていました。ところが、直前になって待ったがかかりました。照射された電波の特徴について電波分析の専門部隊が詳細な解析を行ったところ、FCSレーダーのものとは断言できないという結果が出たのです。

 この轍を踏みたくないと考えたこともあって、私は護衛艦の件については専門部隊による詳細解析の結果が出てから大臣と総理に報告すべきだと判断しました。ところが、東シナ海で行動していた護衛艦から本土に所在する解析専門部隊までデータを送って解析するのに思っていた以上の時間がかかり、結果が出たのは発生から6日も経った後の2月5日となってしまいました。ともあれ、解析の結果は「クロ」だつたので、速やかに防衛大臣及び総理まで報告され、大臣が事実関係を公表し、正式に中国へ抗議しました。

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筆者

黒江哲郎

黒江哲郎(くろえ・てつろう) 元防衛事務次官

1958年山形県生まれ。東京大学法学部卒。81年防衛庁に文官の「背広組」として入り、省昇格後に運用企画局長や官房長、防衛政策局長など要職を歴任して2017年退官。現在は三井住友海上火災保険顧問

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