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中国軍艦レーダー照射で控えた官邸への「速報」 局長になってまた大事件 

連載・失敗だらけの役人人生⑤ 元防衛事務次官・黒江哲郎が語る教訓

黒江哲郎 元防衛事務次官

速報性と付加価値のバランス

 最近特に、政治主導でトップダウンの判断が素早くなされる事例が急増しています。役人としてこうした政治のスピード感について行くためには、迅速な報告を心がける必要があります。また、最近のマスコミは危機対応の妥当性を時間で測ろうとする傾向があり、いつ誰が何をやったのか、総理や大臣が報告を受けたのは何時何分だったのか等々に関心が集まり、まさに本件のような遅れがあるとそれは誰の責任だったのかという点が厳しく追及されることとなります。

 それもあって、役所内ではとるものもとりあえず上司へ速報するという風潮に拍車がかかっているように感じます。速報自体は緊急事態へ迅速に対処するための基本ですし、何かあった時に自分の身を守るアリバイになるという意味でも大切なことだと思います。

 しかし、正直に言えば、私自身はこうした「とにかく一報を」という流れにそのまま乗ることにためらいを感じていました。速報ばかりに気をとられていると、情報の信ぴょう性の確認や事態への対応策の検討がどうしてもおろそかになりがちだからです。自分の頭で考えずに情報を下から上へ流すことだけを繰り返していると、十分な材料を整えずに上司に判断を丸投げし、上司の判断に疑間を持たない、疑間があっても議論しないという無責任な態度につながっていきます。

 加えて本件については、直前の海自ヘリの件のような「勇み足」をしたくないという意識も強く働きました。このため、私は「情報をそのまま上に伝えるのではなく、情報の信ぴょう性を確認した上で報告すべきだ」と判断したのです。残念ながら、本件においては信憑性の確認に予想以上に時間がかかったため総理や防衛大臣(小野寺五典氏=編集部注)への報告が遅れてしまい、批判を浴びることとなりました。

拡大2013年2月5日、中国海軍護衛艦によるレーダー照射について発表する小野寺防衛相=東京・市ケ谷の防衛省

 最低でも一言耳に入れておくべきだったというのはもっともなので、批判は甘受しなければなりません。私自身その点には深く反省しています。その上で、やはり私は付加価値の大事さを強調したいと思います。安全保障や防衛の問題については最終的に政治の判断が必要となるのはもちろんですが、適切な政治判断のためには様々な判断材料が不可欠です。「言うは易く行うは難し」というところですが、速報することと必要な付加価値をつけることとのバランスをとるように努力することが重要だと思います。

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筆者

黒江哲郎

黒江哲郎(くろえ・てつろう) 元防衛事務次官

1958年山形県生まれ。東京大学法学部卒。81年防衛庁に文官の「背広組」として入り、省昇格後に運用企画局長や官房長、防衛政策局長など要職を歴任して2017年退官。現在は三井住友海上火災保険顧問

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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