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コロナ禍における政治リーダーの説明責任

知事たちはいつどのくらい頻繁に記者会見をしてきたか

河野勝・内村太地 / 早稲田大学政治経済学術院教授・早稲田大学河野勝ゼミ17期生

首相が会見を頻繁に行えば行うほど、知事の姿勢が後押しされる

 知事が行う会見には、大きく分けて定例会見と臨時会見とがあり、その他にも「ぶら下がり」などと呼ばれる形態もある。この中で特に重要と位置付け、以下で主な分析対象とするのは、臨時会見である。コロナ情勢にかかわらず実施される定例会見や、非公式なぶら下がりでなく、その時々の判断で開催が決定される臨時会見にこそ、知事の説明責任を尽くそうとする姿勢が最もよく表れる、と考えたからである。

 臨時会見の重要性は、定例会見が慣例としてしばしば記者クラブとの共催で行われるのに対して、臨時会見の多くがむしろ知事や県側のイニシアティヴで開催されるという事実によっても裏付けられる。

 筆者らは、上述のデータ収集と同時に47都道府県の広報担当者にアンケートを依頼しすべてから回答を得たが、その結果によると、臨時会見の開催を提案する主体として最も重要なのは誰かとの質問に対し、記者クラブという回答肢を選んだのは愛媛と徳島の2県にすぎなかった。圧倒的多数からは、知事が最も重要な提案主体である、もしくはそうした主体の一つである、との回答を得たのである(一方、定例会見に関しては、19もの都府県が最も重要な提案主体として記者クラブを単独に選んだ)。

 さて、昨年1月から9月までの間に全国の知事たちが行った臨時会見の総数は1,222回で、同時期の定例会見(898回)より多い。定例会見は、基本的に週に一度しか開かれないが、臨時会見を週に複数回行ったことのある知事も少なからずいた。また、会見日を曜日ごとに集計した表1をみると、知事たちは定例会見が行われない週末にも臨時会見を開いていた(2020年は1月1日が水曜日だったので、小論の分析での「週」は水曜から火曜のサイクルをさす)。他の年と比較していないので断定はできないものの、コロナ禍において、知事たちは定例会見だけでは十分でないと判断し、自らのイニシアティヴで臨時会見を開いてきたといってよいであろう。

拡大表1 知事による記者会見の曜日ごとの回数(2020年1月1日から9月29日まで)

 続いて、表2は、首相による会見が開かれた前後の数日間に、知事も記者会見を行ったかどうかを調べた結果である(ここでは臨時と定例を合算している)。

 この表によると、首相会見の当日に最も多くの頻度で会見が行われ、次に前日および翌日の頻度が高く、首相会見から時間が離れるほど知事たちの会見が少なくなっている。こうした傾向は、全般的に見てとれるが、とりわけ緊急事態宣言下の4月から5月初旬にかけて顕著である。

 この結果からは、首相が会見すると、あたかも各自治体に波及するかのように、その内容を予測したり説明したりするべく、知事による会見も一段と増える効果を持つことが読み取れる。すべての国民に向けた首相の方針や意図が、知事の

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筆者

河野勝・内村太地

河野勝・内村太地 / 早稲田大学政治経済学術院教授・早稲田大学河野勝ゼミ17期生

こうの・まさる 1962年東京都⽣まれ。スタンフォード⼤学博⼠(政治学)。ブリティッシュ・コロンビア⼤学助教授などを経て、現在、早稲⽥⼤学政治経済学術院教授。著書にJapan's Postwar Party Politics (Princeton University Press)、『制度』(東京⼤学出版会)、『政治を科学することは可能か』(中央公論新社)など/ うちむら・たいち 1998年 千葉県⽣まれ。千葉敬愛高校卒業。2021年早稲田大学政治経済学部卒業予定。

※プロフィールは、論座に執筆した当時のものです