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前ヤンゴン支局長がみた「ミャンマー国軍の過信」と「クーデターへの道」

染田屋竜太 朝日新聞記者 前ヤンゴン支局長

「軍人議員の25%の議席は自動的に『拒否権』となる」

 政府と国軍の亀裂がはっきり見えてきたのは、2019年1月末のことだ。NLDが国会で憲法改正のための委員会を設けるという緊急動議を出した。国軍側は「何もきいていない」と猛反発。記者が翌2月、直接インタビューした際、ミンアウンフライン氏も、「事前に知らなかった」と不快感を示した。

 憲法改正には国会の4分の3以上の賛成が必要。だが、憲法で4分の1は国軍最高司令官が指名する「軍人枠」になっている。彼らの賛成がなければ改憲は不可能だ。スーチー氏は、欧米などから「国軍と距離が近すぎる」と批判されながらも国軍への直接的な批判を避けてきた。うまく距離を保ちながら改憲を成し遂げたいという思いがあったはずだ。それが、この動議によって目に見える亀裂が入ったように思えた。

 結局、NLDが出した主要な改憲議案は2020年3月の国会で「軍人枠」の議員らによって全て否決された。議場では、「憲法を変える時、軍人議員の25%の議席は自動的に『拒否権』となる」とNLDの議員が発言すると、軍人議員2人が立ち上がり、「『拒否権』などという言葉を、国軍は決して受け入れない」と大声を上げるなど、荒れた。

 実はこの時、旧軍政系のUSDPが提案した改憲案もあった。大統領が指名すると決められている都市部の管区、地方の州の首相をそれぞれの議会で選ぶ方法に変えるというものだ。議会の多数を少数民族政党などが占めても、NLDの大統領が各地の首相をNLD側で固めている。この現状をUSDPが、「民主的ではない」としていた。

 この議案は逆に、NLD議員らの反対で否決された。USDP側は「結局NLDは民主化がやりたいのではなく我々を追い出したいだけだ」と猛反発した。地方の少数民族政党の幹部は「NLDは譲るところは譲りながら合意点を見極めてほしかった。両者の溝は深まった」と話した。

 国軍側は、NLDに対してだけでなく、スーチー氏についても不満を募らせていた。それが、ロヒンギャ問題が絡んだ、国際司法裁判所(ICJ)の問題だ。

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筆者

染田屋竜太

染田屋竜太(そめたや・りゅうた) 朝日新聞記者 前ヤンゴン支局長

1979年、東京生まれ。2004年に朝日新聞社に入り、一貫して現場にこだわって取材に走り回ってきた。鳥取、神戸を経て大阪では警察、橋下徹市長時代の行政を担当。いかに発表に頼らず報じられるか試行錯誤した。1年の米国留学では宿題が追いつかず事件担当時より眠れない日々も。2017年から3年半、ヤンゴン支局長としてロヒンギャ問題など、関心のある記事を書き続けた。

※プロフィールは、論座に執筆した当時のものです