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最悪の日韓関係 「歴史」乗り越えるには

中国人強制労働で和解実現した内田雅敏弁護士に聞く

箱田哲也 朝日新聞論説委員

 国交正常化以来、「最悪」などと言われる日本と韓国の政治関係は、その「最悪」のラインをどんどん下げて、記録を更新しているかのような無残な状況にある。日本企業に賠償を命じた徴用工訴訟の判決を乗り越えられず、隣国同士でありながら、首脳の往来すら難しい対立が続いてきた。そんなさなか、今度は元慰安婦らが日本政府に賠償を求めた訴訟で、原告が勝訴した。日本政府は、そもそも訴えられた国家は裁判権からの免除を主張できる「主権免除」の原則があるとして裁判に応じず、判決は確定した。

 日韓の前に立ちはだかる「歴史」をどう乗り越えるべきなのか。戦後補償裁判に長年携わり、中国人強制労働問題で日本企業と被害者の和解を実現してきた内田雅敏弁護士に聞いた。

和解ができた中国人強制労働裁判

拡大内田雅敏弁護士
 ――日本では、韓国の司法が外交問題に発展する歴史問題に関する判決を相次いで出している、として反発が出ています。

 「司法が最初に出てくるわけではありません。政治が解決すべき問題なのに、それをしないから被害者たちは、やむにやまれず訴えたのです。日本でも提訴しましたが、サンフランシスコ講和条約とか、二国間の協定とかを理由に司法は応えなかった。しかし、日本の最高裁は2007年4月、西松建設に損害賠償を求めた中国人強制労働裁判で、原告の請求を棄却しながらも、ある付言を出しました。これが大きかったのです」

 ――どんな付言ですか。

 「まず『被害者らの被った精神的、肉体的苦痛が極めて大きく、西松建設が強制労働に従事させて利益を受けている』と被害の事実を認めたうえで、その被害にかんがみて『関係者が救済に向けた努力をすることが期待される』としました。この判決に基づき、2年半後、西松建設が、被害者・遺族に謝罪し、2億5千万円を支出して基金を設立し、金銭補償をする条件で被害者側と和解しました」

 ――いずれも中国の戦後補償問題ですね。

 「今回の慰安婦訴訟にしても、あるいは日本企業に賠償を命じた徴用工にしても、そういう立場で解決することは可能だと思います。日本政府は、中国強制労働被害者と企業の和解で口をはさまなかったのに、韓国の徴用工判決には国際法違反だと反発します。それは中国に対しては贖罪(しょくざい)意識がある一方で、朝鮮には植民地支配に対する認識が欠如しているからだと思います。裁判所や外務省だけでなく、日本社会全体にもそうした認識があるのではないでしょうか。中国人の強制連行問題では、どういう解決方法が良いのかをめぐり裁判所の調査官が外務省側とかなり協議していました。韓国との差は歴然です」

拡大西松建設との和解成立を亡き仲間に報告し、花を手向ける中国人元労働者の邵義誠さん=2009年10月26日、広島県安芸太田町


筆者

箱田哲也

箱田哲也(はこだ・てつや) 朝日新聞論説委員

1988年4月、朝日新聞入社。初任地の鹿児島支局や旧産炭地の筑豊支局(福岡県)などを経て、97年から沖縄・那覇支局で在日米軍問題を取材。朝鮮半島関係では、94年にソウルの延世大学語学堂で韓国語研修。99年からと2008年からの2度にわたり、計10年、ソウルで特派員生活をおくった。13年4月より現職。翻訳した『慰安婦運動、聖域から広場へ』(沈揆先著、朝日新聞出版)が2022年1月刊行された。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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