中国人強制労働で和解実現した内田雅敏弁護士に聞く
2021年02月17日
国交正常化以来、「最悪」などと言われる日本と韓国の政治関係は、その「最悪」のラインをどんどん下げて、記録を更新しているかのような無残な状況にある。日本企業に賠償を命じた徴用工訴訟の判決を乗り越えられず、隣国同士でありながら、首脳の往来すら難しい対立が続いてきた。そんなさなか、今度は元慰安婦らが日本政府に賠償を求めた訴訟で、原告が勝訴した。日本政府は、そもそも訴えられた国家は裁判権からの免除を主張できる「主権免除」の原則があるとして裁判に応じず、判決は確定した。
日韓の前に立ちはだかる「歴史」をどう乗り越えるべきなのか。戦後補償裁判に長年携わり、中国人強制労働問題で日本企業と被害者の和解を実現してきた内田雅敏弁護士に聞いた。
「司法が最初に出てくるわけではありません。政治が解決すべき問題なのに、それをしないから被害者たちは、やむにやまれず訴えたのです。日本でも提訴しましたが、サンフランシスコ講和条約とか、二国間の協定とかを理由に司法は応えなかった。しかし、日本の最高裁は2007年4月、西松建設に損害賠償を求めた中国人強制労働裁判で、原告の請求を棄却しながらも、ある付言を出しました。これが大きかったのです」
――どんな付言ですか。
「まず『被害者らの被った精神的、肉体的苦痛が極めて大きく、西松建設が強制労働に従事させて利益を受けている』と被害の事実を認めたうえで、その被害にかんがみて『関係者が救済に向けた努力をすることが期待される』としました。この判決に基づき、2年半後、西松建設が、被害者・遺族に謝罪し、2億5千万円を支出して基金を設立し、金銭補償をする条件で被害者側と和解しました」
――いずれも中国の戦後補償問題ですね。
「今回の慰安婦訴訟にしても、あるいは日本企業に賠償を命じた徴用工にしても、そういう立場で解決することは可能だと思います。日本政府は、中国強制労働被害者と企業の和解で口をはさまなかったのに、韓国の徴用工判決には国際法違反だと反発します。それは中国に対しては贖罪(しょくざい)意識がある一方で、朝鮮には植民地支配に対する認識が欠如しているからだと思います。裁判所や外務省だけでなく、日本社会全体にもそうした認識があるのではないでしょうか。中国人の強制連行問題では、どういう解決方法が良いのかをめぐり裁判所の調査官が外務省側とかなり協議していました。韓国との差は歴然です」
――韓国との間でも和解したケースがありますね。
「はい、全体解決でなく、原告団との個別解決ですが、1997年に韓国人元徴用工の遺族たちが日本製鉄を相手取った裁判で、和解が成立しました。日本製鉄が、その企業哲学に基づいて解決したわけです。ドイツのフォルクスワーゲン社などが和解したのも同じ企業哲学に基づくものです」
「外務省のOBたちの中には、今の外務省のような考えではない人もいます。だから外務省というよりも、むしろ政権でしょう。安倍政権に象徴される世代の歴史認識のなさが原因です。たとえば、1998年に韓国の金大中大統領と出した『日韓共同宣言』で、小渕恵三首相は、植民地支配への『痛切な反省と心からのおわび』を表明しました。金大中大統領は、それを『真摯(しんし)に受け止める』と応えました。金大中大統領は日本の国会で演説し、大きな拍手を得ました。日韓がこの精神に戻れば、解決は可能でしょう」
――いまも日韓双方は、あの日韓共同宣言を高く評価するのに、現実には関係はどんどん悪化しています。
「日本社会の一般の感覚では、戦後75年もたっているのに、とか、難癖をつけているとか、思うかもしれません。しかし、問題が解決されないまま来たという事実に耳を傾けねばなりません。被害の実態があるということを出発点としないと、なかなか理解できないでしょう」
――しかし、今回の慰安婦訴訟で日本政府は、国家が外国の裁判権に服することはないとする国際法上の原則「主権免除」を主張し、裁判にも出ませんでした。
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