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モロッコ王政は、中国製コロナワクチンの接種がその命運を左右する

[22]観光業などへの打撃、イスラエルとの国交正常化に対する反発

川上泰徳 中東ジャーナリスト

シノファーム製の導入と中国のワクチン外交

 コロナ対策と経済悪化の連関を断ち切るために、ムハンマド6世国王は、2020年11月上旬、王宮で国家科学委員会を開き、その助言のもとに、ワクチン国民全員接種の実施を決定した。この発表では、接種開始の時期やワクチンの種類などは特定されなかった。

 モロッコには2院制の議会があり、立憲君主制をとるが、国王は軍の最高司令官であり、国の重要事項では決定権を持つとみなされている。医療非常事態宣言が発出され、国民全員のワクチン接種が国王の決定とされたのも、コロナ対策が国家の安全保障に関わる重大事という位置づけなのが分かる。

 12月8日、王宮はまず80%の国民に無料でワクチン接種をするとして、具体的な接種計画を示した。AP通信の報道によると、ワクチン接種は、最初は中国製のシノファームで、医療従事者や高齢者などに優先的に実施した後、一般成人に広げるという。全国2888カ所の接種センターのほか、工場や警察署、大学などに移動接種車も出し、接種作業のために1万2000人の医療従事者の動員が発表された。中国製ワクチンとともに、英国の製薬大手アストラゼネカとオックスフォード大学が共同開発したワクチンも使われることが明らかになった。

中国・シノファームが開発した新型コロナウイルスのワクチン拡大中国・シノファームが開発した新型コロナウイルスのワクチン

 中東では2020年夏以降、アラブ首長国連邦(UAE)、モロッコ、エジプトがシノファーム社と契約を結んで、治験を実施し、国内承認に向けた準備を進めていた。モロッコでは600人のモロッコ人が治験に参加したという。UAEはシノファーム製ワクチンの治験の結果、有効性を86%と発表し、シノファーム・ワクチンを正式に登録した。

 モハメド6世国王は2016年に北京を訪問して、習近平国家主席と会談し、戦略的パートナーシップを締結した。今回のシノファーム・ワクチンの導入も、両国の協力と位置付けられた。さらにモロッコ国営通信社が保健省幹部の話として伝えるところでは、最初は中国で製造されたワクチンを使うが、モロッコ国内でもシノファーム・ワクチンを製造するとしている。

 モロッコでのシノファーム・ワクチンの大規模接種の開始は、中国による途上国へのワクチン外交の例であり、

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筆者

川上泰徳

川上泰徳(かわかみ・やすのり) 中東ジャーナリスト

長崎県生まれ。1981年、朝日新聞入社。学芸部を経て、エルサレム支局長、中東アフリカ総局長、編集委員、論説委員、機動特派員などを歴任。2014年秋、2度目の中東アフリカ総局長を終え、2015年1月に退職し、フリーのジャーナリストに。元Asahi中東マガジン編集人。2002年、中東報道でボーン・上田記念国際記者賞受賞。著書に『シャティーラの記憶――パレスチナ難民キャンプの70年』(岩波書店)、『イラク零年――朝日新聞特派員の報告』(朝日新聞社)、『現地発 エジプト革命――中東民主化のゆくえ』(岩波ブックレット)、『イスラムを生きる人びと――伝統と「革命」のあいだで』(岩波書店)、『中東の現場を歩く――激動20年の取材のディテール』(合同出版)、『「イスラム国」はテロの元凶ではない――グローバル・ジハードという幻想』(集英社新書)など。

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