「国家重視・自己責任」で是認されてきた抑圧を終わらせる
2021年03月02日
日本は、他のいわゆる「先進国」と比較し、多くの人々があまり幸福と感じていない社会である。国連の関係団体「持続可能な開発ソリューション・ネットワーク」(Sustainable Development Solutions Network)の「世界幸福度報告書」(World Happiness Report 2020)によると、日本の幸福度は153カ国中、62位であった。これは、専門家グループが複数の指標について各国を比較したもので、各国の改善状況を見ることに主眼がある。
幸福の観点からすると、日本の大きな課題は、社会にある。本報告の指標の要素で、経済や制度、健康においては、1位のフィンランドと62位の日本を比較しても、ほぼ同じである。大きな差が出ているのは、寛容さや日々の充実等の社会に関する要素である。要素の多くがアンケートによる主観によって導かれ、文化等によっても左右されるため、本報告の順位は絶対的でない。それでも、経済力や寿命が同じような国々と比較することで、課題の一端が見えてくる。
こうした日本の人々の幸福感や自己肯定感の低さは、しばしば指摘される。例えば、国連児童基金(ユニセフ)による「子どもの幸福度」に関する報告でも、日本の順位は健康面でトップであるが、精神面で最低レベルとなっている(朝日新聞「日本の子の幸福度 健康は1位、「精神」はワースト2位」2020年9月3日)。これらの指摘は、多くの人々の実感にも沿っているのではなかろうか。
人々の幸福感の低さは「生きづらさ」という言葉に置き換えられる。固定観念の鋳型に自らを押し込んだり、様々な場面でハラスメントに遭遇したり、自分や家族の将来に対して不安を抱いたり、いわゆる「ガラスの天井」に人生を阻まれたり、信頼できる人が身近にいなかったりと、それぞれ異なる状況であるにしても、何らかの生きづらさを抱えている人が多いと考えられる。
この生きづらさの原因は、個人的な理由の場合もあると思われるが、少なくとも「国家重視・自己責任」の国家方針による面は社会の問題となる。そうした生きづらさは、原因を本人や家族に求めても、個人レベルでは解決できない。人々が協力して国家方針を転換し、社会の課題として解決しなければならない。
現在の国家方針は、「高度プロフェッショナル制度(高プロ)」に代表されるとおり、国家目標(経済成長)に資すると見なせば、個人の抑圧を是認する。
安倍政権は、時間外労働の上限規制等の労働規制の強化と抱き合わせで、年収の高い専門職の人に労働時間や時間外の割増賃金などの規制の不適用を可能とする高プロを導入した。高プロは、より多くの経済的価値が追求できる労働制度として、日本経済団体連合会がかねてから要望していたものである。高プロによって経済的価値が拡大するかどうかは、実際のところ根拠不明であるものの、少なくとも経済界はそのように見なしていた。当然ながら、労働規制が適用されなくなれば、個人の権利は抑圧されやすくなる。
また、自民党の政治家はしばしば、経済的に役立たないと見なす存在を軽視する発言を繰り返してきた。例えば、麻生太郎副総理は2018年5月に「殺人とか強制わいせつとは違う。セクハラ罪という罪はない」とセクハラをした財務事務次官(経済政策に関する重要ポスト)を擁護し、杉田水脈衆院議員は2018年7月に「彼ら彼女らは子供を作らない、つまり生産性がない」とLGBTの人々を公的に支援する必要はないと述べ、根本匠厚生労働大臣は2019年6月に「女性にハイヒール・パンプスの着用を指示する、義務づける。これは、社会通念に照らして業務上必要かつ相当な範囲」と経済的価値の追求を優先させるべきとの認識を示した。
国家方針を「個人重視・支え合い」に転換すれば、国家目標のために是認されてきた抑圧を認める理由がなくなる。
国家、すなわち全体の利益のために、様々な社会システムにおける個人の抑圧を認めることは、日本国憲法は認めていないが、これまでの自民党政権は、タテマエとしての憲法とホンネとしての国家方針を両立させることで、それらを温存させてきた。憲法改正を積極的に目指した安倍政権においては、抑圧に声をあげる人たちに対し、政権を支持する文化人等から「反日」との非難が浴びせられてきた。国家方針の変更は、それらの足場を取り去ることを意味する。
しかし、政権交代で国家方針が転換しても、多くの抑圧が社会システムに組み込まれているため、自動的にそれらが解消されるわけではない。この抑圧を組み込んだ社会システムは、学校での理不尽な校則から、世帯単位で提供される社会保障まで、目につきやすいものから、当事者でなければ分からないものまで、社会のあちこちに
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