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ロシアと中国の「ワクチン外交」戦略

人命にかかわるワクチン支援動向を見極めよ

塩原俊彦 高知大学准教授

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)向けワクチンの開発・輸出を通じて、特定の国とのパイプを太くしようという「ワクチン外交」については、2021年1月13日付の拙稿「「ワクチン外交」と地政学」で論じたことがある。ここではとくにロシアと中国がワクチン外交をどのように展開しているかについて論じてみたい。なお、「世界のコロナウイルスCOVID-19ワクチン、投与量、分布、ワクチン接種の取り組みを追跡」というサイトを参考にしながら、議論を進めたい。

ハンガリーではじまったスプートニクVの投与

 2021年2月12日、「ハンガリーはロシアのスプートニクVワクチンを市民に注射しはじめ、欧州連合(EU)の規制当局によってテスト・承認されていないコロナウイルス予防接種を管理する最初の国になった」と、「ニューヨーク・タイムズ電子版」が伝えている。

 ハンガリーはスプートニクVの最初の出荷分(4万回分)をすでに受け取っており、今後3カ月間に200万回分が供給される予定だ。反EU色を強めるヴィクトル・オルバン首相は、EUのワクチンの承認・注文・配布を調整する共同予防接種プログラムに批判的で、独自にワクチンを輸入し、接種実績をあげることで、2022年の国政選挙に備えようとしている。

 スプートニクVは、2021年2月2日、有力科学誌『ランセット』においてその安全性と有効性を示す論文が公表された。2月10日付の「ワシントン・ポスト電子版」は、「初回接種から21日後に91.6%、60歳以上で91.8%の効果があったとする査読付き論文を発表したことで、このワクチンは、有名なファイザー・バイオンテックやモデナのワクチンと同等の効果があることが明らかになった」とのべている。

 しかも、「スプートニクVは欧米の競合他社よりもかなり安価で、開発途上国の多くでファイザーワクチンの流通を複雑にするような超低温貯蔵インフラのようなものを必要としない」と指摘している。当初、少ない治験にもかかわらず、世界初のCOVID-19向けワクチンに承認されたため、その評判は必ずしも芳しくなかったが、ここにきて注目を集めるようになっている。

 図は『ランセット』に登場したワクチンの有効性の高い順に示したものである。ファイザー・バイオンテックのワクチンが95%、モデルナが94.1%、スプートニクVが91.6%となっている。これをみるかぎり、スプートニクVは中国の科興控股生物技術(シノヴァック)の50.4%に比べるとかなり高い有効性を誇っている。なお、シノヴァックのトルコとインドネシアでの中間データに基づく有効率はそれぞれ91.25%と65.3%であったが、ブラジルでの臨床データに基づくと、当初78%であったものが、2021年1月に50.4%に修正された。

 2月15日現在、スプートニクVはロシア、ベラルーシ、アルゼンチンでワクチン承認を得ている。ベラルーシ、カザフスタン、トルコはすでにスプートニクVの開発・製造についてロシア側と合意済だ。西側からのワクチンを禁止しているイランもこれに参加することにすでに合意している。加えて、ロシア直接投資基金によると、インド、韓国、ブラジル、中国もスプートニクVを製造する予定である。

 最初に紹介したサイトによると、スプートニクV購入の事前契約を結んでいるのは、インドが1億回分の接種であり、ブラジルが5000万回分、ウズベキスタンが3500万回分、メキシコが3200万回分、エジプト、アルゼンチン、ネパールが2500万回分、ベネズエラが1000万回分、カザフスタンが200万回分となっている。

 スプートニクVを寄付する動きもある。2月になって、レバノンはスプートニクVを承認し、20万回分の接種量が駐レバノンロシア大使館から寄贈されることになった。さらに、ロシアのダイヤモンドメーカー、アルロサはダイヤモンド原石の採掘をしているアンゴラやジンバブエに対してスプートニクVを購入したうえで寄付することを2021年2月に明らかにした。3月中旬から供給がはじまる見通しだ(中国政府はすでにジンバブエに中国医薬集団総公司[シノファーム]のワクチン20万回分を寄付した。60万回分はジンバブエ政府が購入する)。

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筆者

塩原俊彦

塩原俊彦(しおばら・としひこ) 高知大学准教授

1956年生まれ。一橋大学大学院経済学研究科修士課程修了。学術博士(北海道大学)。元朝日新聞モスクワ特派員。著書に、『ロシアの軍需産業』(岩波書店)、『「軍事大国」ロシアの虚実』(同)、『パイプラインの政治経済学』(法政大学出版局)、『ウクライナ・ゲート』(社会評論社)、『ウクライナ2.0』(同)、『官僚の世界史』(同)、『探求・インターネット社会』(丸善)、『ビジネス・エシックス』(講談社)、『民意と政治の断絶はなぜ起きた』(ポプラ社)、『なぜ官僚は腐敗するのか』(潮出版社)、The Anti-Corruption Polices(Maruzen Planet)など多数。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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