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脱炭素社会の実現のカギを握る水素:世界の覇権争奪にも影響/下

米中国も巻き込んだ水素利用の世界標準化へ

塩原俊彦 高知大学准教授

水素飛行機

 水素飛行機については、The Economistに「いまは飛行機が水素で走るのに機が熟した時代になのだろうか」という興味深い記事が掲載されている。それによると、水素は現在の標準的な航空燃料であるケロシンの3倍のエネルギーを1キログラムあたりに封じ込めている。だが、水素は軽いとはいえ、かさばるので機内での保管には不便だという。加圧するか液化するかしなければならないのだが、どちらも複雑な問題を抱えている。ゆえに、そう簡単に多数の水素エンジン搭載機が大空を行き交うようにはなりそうもない。

 それでも、脱炭素社会の実現に向けて、二酸化炭素などの温暖化ガスの排出を少しでも減らすため、再び水素を利用した航空機開発がさかんに行われるようになっている。たとえば、英国のゼロアビア(ZeroAvia)は2020年9月、6人乗りの燃料電池搭載機を発表した。通常、ピストンエンジンで駆動するシングルプロペラ機のエンジンを電気モーター式に置き換え、そのモーターを駆動するための燃料電池のバンクと、燃料電池を動かすための水素を貯蔵するタンクを設置したものだ。つまり、水素発電により電気モーターを回し、それでプロペラを駆動する航空機を開発したのである。同社は2021年に20人乗りのデモ機を準備する予定で、商業利用のための認証は2023年に行われるかもしれないという。

 2016年の段階で、ドイツの航空研究センターのDLRから分離したH2Flyは、電動グライダーに燃料電池を搭載し、15分間の空中飛行に成功した。これをプロペラ駆動機にまで拡大する計画がある。米国では、電気航空機用の電気モーターメーカー、MagniXがロサンゼルスにあるユニヴァーサル・ハイドロジェンと提携し、40人乗りの飛行機を2025年までに燃料電池で飛行させる計画を明らかにしている。

 こうした動きと競合関係にあるのは、バッテリーを動力源とする電気飛行機である。たとえば、2020年5月、米国のアエロテック(Aerotec)はバッテリー駆動の9人乗りのセスナ・キャラバンをワシントン州上空で飛行させた。だが、乗客や貨物を乗せて長距離輸送を可能とするだけのバッテリー開発はいまのところ難しい。

 これとは別に、水素をガスとして燃焼させるタービン駆動エンジン搭載の大型機開発も進められている。エアバスは2020年9月、水素を一次動力源とする3機の開発プロジェクト「ZEROe」を発表した。3機とも、水素を燃やすタービンエンジンで離陸を促し燃料電池で巡航するという、二つの水素技術の組み合わせを前提に設計されている。最大100人の乗客を乗せて約1852キロメートル飛行可能なものや、120~200人の乗客でその2倍の飛行ができるもの、さらに水素貯蔵のための容積をもつ「混合翼」をもつモデルの3種類となっている。

 さらに、The Economistの記事によれば、エアバスは2027年に水素プログラムを正式に開始する予定だ。2030年以降は徐々に、新型機の排出量を大幅に削減し、2035年以降、短距離路線のジェット機の排出量をゼロにする予定であるという。

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水素船舶

 水素船舶については、2021年1月12日に、英国のワイアードが「この水素動力のドリームボートは七つの海をきれいにするためにここにある」という記事を公開している。デンマークの海運会社が2027年までに、コペンハーゲンとオスロを結ぶ航路に圧縮された水素を動力源とし、クリーンな水だけを排出する新しい船、「ヨーロッパ・シーウェイズ」を就役

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筆者

塩原俊彦

塩原俊彦(しおばら・としひこ) 高知大学准教授

1956年生まれ。一橋大学大学院経済学研究科修士課程修了。学術博士(北海道大学)。元朝日新聞モスクワ特派員。著書に、『ロシアの軍需産業』(岩波書店)、『「軍事大国」ロシアの虚実』(同)、『パイプラインの政治経済学』(法政大学出版局)、『ウクライナ・ゲート』(社会評論社)、『ウクライナ2.0』(同)、『官僚の世界史』(同)、『探求・インターネット社会』(丸善)、『ビジネス・エシックス』(講談社)、『民意と政治の断絶はなぜ起きた』(ポプラ社)、『なぜ官僚は腐敗するのか』(潮出版社)、The Anti-Corruption Polices(Maruzen Planet)など多数。

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