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森喜朗氏の「女性理事」発言を生んだ日本社会の「土着性」は克服できるのか

「狭いサークル」の「内輪の協調」を重んじる姿勢が外部への配慮を阻害する構図

櫻田淳 東洋学園大学教授

「狭いサークル」で「内輪の協調」を重んじる

 森の「女性理事」発言に反映された「土着性」の意味は、次に挙げる二つの観点から説明できよう。

 第一に、日本社会の「土着性」が最も露骨に反映されるのは、地域や血縁から学閥や職域関係に至るまで、人々が自ら関わる「狭いサークル」での「内輪の協調」を重んじる姿勢においてである。

 こうした「狭いサークル」での協調とは、「互いに互いの表情や息遣いが判る」関係の中で築かれ、継承された合意や常識によって担保されている。森の「女性理事」発言に反映されているのは、正確には「女性を蔑視する」心理ではなく、「『狭いサークル』の中での合意や常識に慣れて、女性を含む『異質な人々』に対する理解や配慮を厭う」心理であったのであろう。

 仮に森が明白に「女性を蔑視する」心性の持ち主であるならば、彼は衆議院議員として議席を維持することも覚束なかったであろう。というのも、「民主主義体制下、政治家の欲する票の半分は女性から投じられる」からである。故に、森の「女性理事」発言に「女性蔑視発言」と通り一遍のラベルを貼って何かを語ったような気になるのは、実は弊害の多いものなのではなかろうか。

 「『狭いサークル』での合意や常識に慣れて、『異質な人々』に対する理解や配慮を厭う」心理に陥ったことがない人々は、日本社会にあって、どれだけいるのであろうか。「狭いサークル」での合意や常識は、一面では往々にして人々に「窮屈さ」を感じさせるものであるけれども、他面ではそれに順応する人々に「居心地の佳さ」を与えることもある。現今、そうした「土着性」の意味を凝視することは、大事であろう。

「狭いサークル」外への配慮を損ねる

 第二に、日本社会の「土着性」は、前に触れた「狭いサークル」での「内輪の協調」を重んずる故に、その「狭いサークル」外には鋭敏な配慮が働かないという結果を招く。

 政治家における「失言」や「物議を醸す発言」として伝えられたものの多くは、「狭いサークル」の内に向けて発せられ、それが外でハレーションを生じさせたものである。森のように「失言」の多さを持って語られた政治家は、この種の「危ない発言」に及んだとしても、「ああ、あのおっさん、またかよ……」と「狭いサークル」の内からは半ば呆れ顔で反応されるのが、精々であるかもしれない。それもまた、「狭いサークル」の中で「互いに互いの表情や息遣いが判る」人間関係を前提にしているのである。

 しかし、森を典型として、「狭いサークル」の内に向けて言葉を発することに慣れた政治家は、その「狭いサークル」の外、即ち「互いに互いの表情や息使いが判らない」人々に向けた言葉を発するのが、往々にして不得手である。森が自らの内閣の政策運営を頓挫させた「神の国」発言騒動というのも、彼が神道関係団体という「狭いサークル」の中で話したことが、メディアを通じて外に漏れたことを発端にしたものであった。森の「女性理事」発言も、その類のものに他ならない。

拡大3Dstock/shutterstock.com

日本社会に深く根を張る強靱さ

 故に筆者は、森に対する「嵩(かさ)にかかった」姿勢での批判には与(くみ)しない。そうした批判は、日本社会の「土着性」を前にする限りは、大方の日本の人々にとっては、「自分のことを棚に上げた」類のものになるからである。

 無論、こうした日本社会の「土着性」は、日本のメディア、学者、知識人によって、永らく批判されるべきものとして語られてきた。第二次世界大戦後、折々に披露された「民主主義」論の文脈では、人々が「土着性」の桎梏(しっこく)から脱して「自主独立」の立場で政治に関わることこそ、民主主義体制の趣旨に相応しいものとして語られてきたのである。

 この観点からすれば、多様に築かれた「互いに互いの表情や息遣いが判る」人間関係の上で幾重もの「狭いサークル」を切り回すという自民党の政治手法は、それ自体が「土着性」を濃厚に反映するものであり、批判に曝(さら)されるべきものであった。平成改元以降に進められた「政治改革」の動きとは、そうした「土着性」を制度の上から克服しようとするものであったと評価されよう。

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筆者

櫻田淳

櫻田淳(さくらだ・じゅん) 東洋学園大学教授

1965年宮城県生まれ。北海道大法学部卒、東京大大学院法学政治学研究科修士課程修了。衆議院議員政策担当秘書などを経て現職。専門は国際政治学、安全保障。1996年第1回読売論壇新人賞・最優秀賞受賞。2001年第1回正論新風賞受賞。著書に『国家への意志』(中公叢書)、『「常識」としての保守主義』(新潮新書)など。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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