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東京五輪組織委会長の選任問題が提起している課題に正面から向き合おう

田中均 (株)日本総合研究所 国際戦略研究所 理事長/元外務審議官

 東京五輪組織委員会新会長に橋本聖子五輪担当大臣が選任されたが、ここに至たるまでは女性差別、組織の透明性の欠如など日本社会の縮図とでも言うべき深刻な問題が提起されてきた。新会長の下で、それらの問題を含めた課題に前向きに取り組んでいく事が何より重要だ。

拡大閣議に臨む菅義偉首相(中央)、橋本聖子五輪担当相(右)=2021年2月12日

東京五輪開催はコロナ対策の成功次第だ

 まず、新会長の最大の課題はそもそも東京五輪を予定通り開催するのか、開催する場合観客を入れるのか否かといった開催の形式についての判断と調整であるとされる。

 しかし、このような問題の捉え方は基本的に間違っていると思う。確かに国民の8割が予定通りの実施に消極的であるという世論調査があるが、それは優れて現下のコロナ感染が終息とは程遠い状況にあるからだ。

 コロナ終息に向けての政策は組織委員会の担当ではない。組織委会長が誰になったとしてもコロナ感染を止められるものではないし、現在の状況では国民への説得も難しい。問われなければいけないのは、政府も東京都も「五輪は再延期の実現性はなく、予定通り実施する」という決意の下で、バッハIOC会長の言う3月、4月の重要な時期に向けて道程表をつくり、コロナ対策に取り組んでいるのか、という点である。

 島根県知事は県内の五輪聖火リレーは現在のコロナ感染状況では実施できないとの見通しを示した。島根県においてはかなり徹底的なコロナ対策がとられ、感染者は実質ゼロというところまできている訳で、全国的に聖火リレーを3月25日から始めるのであれば、同様の対策をとってほしいという呼びかけではないかと思う。

 世界でも中国や台湾、越やNZなど徹底的なPCR検査・隔離・治療で実質的に新規感染者ゼロという状況に達している。日本では相変わらず積極的なPCR検査までは踏み切れていないようだ。また、米国、欧州、イスラエルなどの中東諸国ではワクチンの接種が本格的に始まっているが日本では何故かこれに二カ月程度遅れ、またワクチン調達の確実なスケジュールも明らかではない。日本では感染者が相対的に少なく治験が間に合わなかったと言われるが、日本には東京五輪があり、五輪は待ってくれない。

 それどころか日本では、経済のために早急に緊急事態宣言を解除しなければ、という前のめりの議論すら聞かれる。宣言を解除し、国民の自制が緩み、再び感染が拡大していけば、それこそ東京五輪実施のめども立たなくなるのではないか。感染を何としてでも抑え込むことこそが現在の最大優先事項ではないのか。

 菅首相が言うように「東京五輪は人類が新型コロナウイルスに勝った証しである」と高らかに宣言するのが日本の務めなのではないか。政府・東京都はPCR検査拡大・ワクチン接種のスケジュール・医療崩壊を防ぐ具体的手立てを含め具体的道程表をつくり、国民が「これなら五輪を実施しても大丈夫」という意識を持つようにしてもらいたい。新会長はそのうえで国際社会に強力に発信してもらいたいと思う。

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筆者

田中均

田中均(たなか・ひとし) (株)日本総合研究所 国際戦略研究所 理事長/元外務審議官

1969年京都大学法学部卒業後、外務省入省。オックスフォード大学修士課程修了。北米局審議官(96-98)、在サンフランシスコ日本国総領事(98-2000)、経済局長(00-01)、アジア大洋州局長(01-02)を経て、2002年より政務担当外務審議官を務め、2005年8月退官。同年9月より(公財)日本国際交流センターシニア・フェロー、2010年10月に(株)日本総合研究所 国際戦略研究所理事長に就任。2006年4月より2018年3月まで東大公共政策大学院客員教授。著書に『見えない戦争』(中公新書ラクレ、2019年11月10日刊行)、『日本外交の挑戦』(角川新書、2015年)、『プロフェショナルの交渉力』(講談社、2009年)、『外交の力』(日本経済新聞出版社、2009年)など。2021年3月よりTwitter開始、毎日リアルタイムで発信中。(@TanakaDiplomat)

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