田中秀明(たなか・ひであき) 明治大学公共政策大学院教授
東京工業大学大学院及びロンドン・スクール・オブ・エコノミクス大学院修了、博士(政策研究大学院大学)。専門は公共政策・財政学・社会保障。1985年旧大蔵省入省後、旧厚生省、外務省、内閣官房、オーストラリア国立大学、一橋大学などを経て、2012年より現職。主な著書に、『官僚たちの冬』(2019年、小学館新書)、『財政と民主主義』(共著、2017年、日本経済新聞出版社)
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
幹部公務員・日本学術会議人事にも透明性を
東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長の女性蔑視発言を契機として、後任の会長人事が問題になっている。
しかし、これは、単に特定の財団法人の人事にとどまる問題ではなく、公的組織の人事、特に菅義偉首相が関わってきた日本学術会議会員や中央省庁の幹部公務員の人事にも共通する問題である。何が本質的な問題なのかを考える。
ことの発端は、東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長が、2月3日の日本オリンピック委員会(JOC)の評議員会の場で「女性がたくさん入っている理事会は時間がかかります」と発言したことである。
この発言の背景には、日本社会の男女格差の問題があることは周知のとおりである。世界経済フォーラムが公表している男女格差を測る「ジェンダー・ギャップ指数」で、2020年の日本の総合スコアの順位は153か国中121位となっていることが証左である。
それはさておき、今回の騒動で、危機対応の稚拙さとガバナンスの欠如を明らかにしたのは、発言後の対応である。森会長は、問題発言の後2度にわたり釈明しているが、その発言では真に謝っているとは言えない。本人は謝っていると思っているだろうが、聞いている方はそう受けとめていないのだ。
例えば、12日、森会長は、「私が余計なことを申し上げたのか、これは解釈の仕方だと思う。そう言うとまた悪口を書かれますけども」、「多少意図的な報道があったんだろうと思います。『女性蔑視』なんて言われて」、「私は組織委に入ってから女性をできるだけたたえてきたし、女性を蔑視する気持ちは毛頭ない」、「国のため、世界のために頑張ってきた。老人が悪いかのような表現は極めて不愉快」とも語ったが(「朝日新聞」2021年2月13日)、いずれも言い訳である。森会長にも言い分があることは理解するが、謝罪会見でそれを言ってはならないのだ。
謝罪会見で言い訳を言うのは、企業の不祥事後の会見でもしばしば見られることであるが、失敗する典型例である。更に、会長の後任人事を巡って、森会長の発言や行動は、事態を悪化させた。一連の騒動は、絵に描いたようなガバナンス欠如の事例だ。
森会長の問題はこれぐらいにとどめて、本論に移ろう。
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