「GIGAスクール構想」への5つの懸念(上)
(3)教育のICT化による教育格差の拡大
昨春の一斉休校中に格差が生じていた
新型コロナウイルス感染拡大を受けて実施された2020年春の学校一斉休校では、一部の地方自治体や学校でオンライン教育の導入が進みました。多喜弘文准教授(法政大学)と松岡亮二准教授(早稲田大学)は、内閣府の調査データに基づき、臨時休校中に生じたオンライン教育の格差について分析しています。
その調査結果によると、オンライン教育の実施状況に関して、住んでいる地域や家庭の収入による格差が生じたことが確認されました。出身家庭や居住地域といった「生まれ」は、本人にはどうすることもできません。「生まれ」による教育格差がオンライン教育においても観察されたことは重要です。
私立や国立の小中学校の方が公立小中学校よりもオンライン教育の普及率が高いことも確認されました。このことは容易に想像できます。それだけではなく、保護者の大卒割合が高い地域の公立学校の方が他の地域の公立学校よりも、オンライン教育を実施しやすい環境が整っていて、オンライン教育を実施できた割合が高いことも確認されました。公立学校のなかでも格差が生じていることがわかりました。
家庭の収入レベルと親の学歴には相関関係があります。高学歴の親ほど職場などでICTを利用する機会が多く、家庭内で子どものオンライン学習を手伝うときに有利になるでしょう。家庭にコンピュータやタブレット端末があるか否かもオンライン教育環境を左右しますが、それも家庭の収入レベルとの相関関係が高いはずです。ひとり親世帯の方が、子どものオンライン学習をサポートするのは難しいでしょう。貧困率の高い母子家庭では母親が2つも3つも非正規雇用のパートやアルバイトを掛けもちしている例が多く、家庭でオンライン教育を手伝う余裕などないでしょう。
従来型の教室の授業以上に、オンライン教育は格差が生じやすいことが明らかになりました。オンライン教育の割合が高まれば、親のデジタル・デバイド(デジタル情報格差)が、子どものデジタル・デバイドを生むという、世代を超えた情報格差の再生産を招く可能性が高いです。その点も十分な配慮が必要です。

授業後、黒板の板書を「1人1台」のタブレット端末で撮影して保存する児童たち=2020年10月2日、愛知県高浜市の高浜小学校
ICT化が生む2種類の「デジタル格差」
海外でも教育のICT化が低所得家庭に与える影響について研究が進んでいます。米国で出た「全員にとってのチャンス? テクノロジーと低所得家庭の学習」という報告書によると、2種類のデジタル格差があるそうです。ひとつはデジタルツールの利用機会の格差。もうひとつは親の関与の格差です。
米国の貧しい家庭の子どもにとっては、スマホが唯一のデジタル接続の道具であり、wi-fi環境でなければデータ利用にも制限があります。また、単にデジタル機器を子どもに渡すだけでは、子どもは遊びに使うだけで終わります。親の適切な関与がないと、デジタル機器の教育効果は高くありません。日本でも同じことが起きている可能性が高いです。
フィラデルフィアの図書館で行われた研究では、恵まれない家庭の子どもに図書館の本やデジタルの利用機会を提供したところ、親の関与がなければ、デジタル機器を導入したグループの方がそうでないグループよりも読み書きテストの成績が悪かったそうです。デジタル機器を遊びに使っただけの子どもは特に成績が悪かったそうです。