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ミャンマーの若者たち、IT駆使しスマートに行動 「その勇気と愛国心に敬意」NLD議員インタビュー〜ヤンゴン緊急リポート第六弾

松下英樹 Tokio Investment Co., Ltd. 取締役

大規模ストなど、緊張がさらに強まるミャンマー。選挙で当選したNLDの議員は何をし、どう考えているのか。その一人から直接、話を聞けた。ヤンゴン在住の日系投資会社役員、松下英樹さんの緊急レポート第六弾。
松下英樹(まつした・ひでき) ヤンゴン在住。2003年より日本とミャンマーを往復しながらビジネスコンサルタント、投資銀行設立等を手がけ、ミャンマーで現地ビジネスに最も精通した日本人の一人として知られている。著書に「新聞では書かない、ミャンマーに世界が押し寄せる30の理由」(講談社プラスアルファ新書)

 2月1日の国軍による「非常事態宣言」発令から3週間が過ぎた。国民の抗議活動は拡大する一方であるが、全権を掌握した新軍事政権はあらゆる手段を使ってこれを抑え込もうとしている。19日には、9日に首都ネピドーで頭部に銃撃を受け重体だった20歳の女性の死亡が確認され、今回のクーデターによる最初の犠牲者となってしまった。

2月22日 道路を埋め尽くす市民の抗議活動 フレーダン交差点(著者の知人撮影)2月22日 道路を埋め尽くす市民の抗議活動 フレーダン交差点(著者の知人撮影)

 2月20日には、第2の都市マンダレーの造船所における「市民的不服従運動(CDM)」を取り締まっていた治安部隊が発砲し、少なくとも市民2名が死亡、45名以上が負傷した。最大都市ヤンゴンのシュエピーター地区では、夜間自警活動をしていた男性1名が、警察を名乗る男に頭部を撃たれ死亡した。

2021年2月20日 マンダレーで起きた銃撃の様子 VOA

 外務省は2月21日付で、ミャンマー全域を危険レベル2(不要不急の渡航は止めてください)に引き上げ、在ミャンマー日本大使館は外務報道官談話として下記の声明を発表した。

外務報道官談話:ミャンマーにおけるデモ隊等の死傷について
令和3年2月21日
1 日本政府は、ミャンマー治安当局によるデモ隊に対する発砲により、複数の民間人が死傷していることを強く非難します。また、犠牲者の御遺族に対し哀悼の意を表し、負傷者の方々に心からお見舞い申し上げます。
2 平和的に行われるデモ活動に対して銃を用いた実力行使がなされることは許されることではありません。日本政府は、ミャンマー治安当局に対して、民間人への暴力を直ちに停止するよう強く求めます。
3 また、日本政府は、アウンサンスーチー国家最高顧問を含む関係者の解放、民主的な政治体制の早期回復を改めて国軍に対して強く求めます。

2021年2月20日午前6時30分 ヤンゴンから脱出する車で渋滞している高速道路料金所付近(著者撮影)2021年2月20日午前6時30分 ヤンゴンから脱出する車で渋滞している高速道路料金所付近(著者撮影)

 平和的な抗議活動を続けている民衆の怒りも頂点に達している。ミャンマーでは占星術が盛んで、何か事を始めるときに日時を選ぶ風習がある。数千名の犠牲者が出た1988年の民主化運動の時は、8月8日に大規模なゼネスト・デモが行われたことから「8888民主化運動」と呼ばれている。2021年2月22日は2が5つ含まれていることから「22222」デモと名付けられ、大規模なゼネストが始まった

2月21日午後4時30分 スーパーで食料品を買いだめする人たち(著者撮影)2月21日午後4時30分 スーパーで食料品を買いだめする人たち(著者撮影)


 ミャンマーでは1日のクーデター発生後、抗議のためのCDMが拡大しており、行員がほとんど出勤していない民間銀行はほぼすべての支店で休業が続いている。営業を続けている国軍系の銀行では、現金を引き出す人が押し寄せているため、引き出し額の上限を設け午前中の数時間だけの営業を行っている。オンライン決済が普及していないミャンマーでは、現金不足により月末の給料支払いや債務の支払いができない企業が続出する恐れがある。海外送金業務も滞っているため、外資系企業にとっても既に深刻な問題となっている。

 今、選挙で当選した国民民主連盟(NLD)の議員たちは何をしているのか?

「CRPHこそ正当な政府」 SNSを飛び交う声

 ミャンマーの選挙制度は小選挙区制で、1つの選挙区から上院、下院、および地方政府議会議員が選出される。

 日本の国会議員にあたるNLDの連邦議会議員たちは、一時的な拘束から解放された後、2月5日に独自の議会を開催、ミャンマー連邦議会代表委員会(Committee Representing Pyidaungsu Hluttaw 、CRPH)を結成した。9日にはアウンサンスーチー国家顧問の再任命を決定している。

20210217_121133 故障と偽って交差点をブロックするデモ隊の車(著者撮影)20210217_121133 故障と偽って交差点をブロックするデモ隊の車(著者撮影)

 16日、国家統治評議会(新軍事政権)は政権運営の資金確保のために、ミャンマー中央銀行に2千億チャット(約150億円)分の国債の発行を決めさせたが、CRPHがすぐに「国家統治評議会は正式に樹立された政府ではない。正式ではない政府が発行する国債は無効であり、民間銀行は購入すべきではない。損害が発生した場合は購入した者が責任を負うことになる」とコメントしたため、入札は不調に終わり、売買が成立したのは17億チャット(約1億2750万円)に留まった。SNSではCRPHこそが民意を反映した正当な政府であると訴える投稿が拡散している。

CRPHへの支持を訴える画像 フェイスブックの投稿より
(中央の人物はウィン・ミン大統領)CRPHへの支持を訴える画像 フェイスブックの投稿より (中央の人物はウィン・ミン大統領)

 18日、友人の紹介で2020年11月の総選挙でヤンゴン地域議会議員に初当選した、ヌー・ヌー・トェさんにインタビューすることができた。2006年に京都大学大学院で修士号を取得したヌー・ヌー・トェさんは、日本語も少し話すことができる。(インタビューは英語で行った)

 気さくだが、身振り手振りを交えて熱く政治を語る口調からは、長年アウンサンスーチー氏らとともに民主化運動の闘士として軍政と闘ってきたたくましさも感じられた。本来であれば選挙で選ばれた住民の代表として議会で活躍するはずだった方が、今回のクーデターをどのように感じているのか、思いを語ってくれた。

ヌー・ヌー・トェさん(写真は同氏のフェイスブックより)ヌー・ヌー・トェさん(写真は同氏のフェイスブックより)

プロフィール
Myanmar News Agency (ミャンマー国営通信社) 外信部記者として勤務
京都大学法学部大学院にて修士号取得(Political Science)
Chairperson of NLD Women Committee Bahan Township(バハン地区NLD女性部長)
現、ヤンゴン地域議会議員
2020年11月総選挙にてヤンゴン市ダゴン地区よりヤンゴン地域議会議員(日本では東京都議会議員に相当)にNLDから立候補、ヤンゴンの最激戦区といわれたダゴン地区で、国軍系の連邦団結発展党(USDP)および人民さきがけ党(PPP)の有力候補を僅差で破り初当選を果たした

 ――まず、今回の国軍による国家非常事態宣言についてどう思っているかお聞かせください。

 彼らは今回の選挙で大規模な不正があったと主張していますが、決してそんな事実はありません。実際に候補者として選挙戦を戦った私が断言します。私が立候補したダゴン地区は有権者数が1万2000人ほどの小さな選挙区です。不正があればすぐにわかってしまいます。クーデターを正当化する口実にすぎないと思っています。

 ――2月1日にクーデターが起きたことはどのように知りましたか?

 翌日の未明にネピドーにいた国会議員から電話がありました。私の自宅には軍人も警察もやってきませんでしたが、念のために知人の家を転々としながら、電話やSNSで同僚議員たちと連絡を取り合って、情報交換をしていました。

「路上の発電機によじ登って抗議」

 ――他の当選議員たちと連絡はとれていたのですか?

 私たちは1日からZoomを使ってオンライン会議を開催しています。ヤンゴン地域では45選挙中44選挙区でNLDが勝ちました。各選挙区で2名ずつの議員が選出されるため90議席中88人がNLD議員ということになります。中にはインターネットが使える環境にいない人もいましたので全員が参加できたわけではありませんが、バーチャル議会といっていいと思います。憲法の規定により選挙後90日以内に新しい議会を開催しなければなりません。2月8日がその期限でしたが、2月6日の午前中に私たちは正式にヤンゴン地域議会を開催することができました。

 ――新しい議長が選出されたのですか?

 インターネットが遮断されるという噂があり、とにかく時間がありませんでしたので、議長の選出はできませんでした。

2月17日 待機する軍隊と警察 フレーダン交差点付近(著者の知人撮影)2月17日 待機する軍隊と警察 フレーダン交差点付近(著者の知人撮影)

 ――ヤンゴン管区首相はどなたになるのですか?

 本来であればヤンゴン管区の首相をはじめとして閣僚も任命されるはずでしたが、これはアウンサンスーチー党首が決めることですので、コメントできません。ただし、既にリストはできていると聞いています。

 ――身の危険を感じるようなことはありませんでしたか?

 数日前に、数十名の警官隊が 2名のNLD幹部を拘束するために党本部にやってきたと職員から電話がありました。私の自宅は党本部から近いので、現場にかけつけた時には数名の職員がいただけでしたが、SNSのグループ機能を使って「緊急事態。すぐに党本部に集まってください」と呼びかけると近隣の支援者たちがすぐに大勢駆けつけてくれて、警官隊を追い返すことができました。私も路上に設置された発電機によじ登り、大声で叫んで抗議しましたよ(笑)。SNSは民主化運動の大きな武器になっていますね。

2月18日 抗議デモに参加した市民ランナーグループ(著者撮影)2月18日 抗議デモに参加した市民ランナーグループ(著者撮影)

 ――今はどのような活動をされているのですか?

 連日、軍政に抗議する市民たちと一緒にスーチー氏らの解放を求める運動をしています。今朝はフランス大使から要望書を受け取る用意があると連絡をいただいたので、支援者に伝えフランス大使館前に集まってもらいました。今の若者たちは政治に無関心だと思われていましたが、決してそんなことはありません。ITを駆使してとてもスマートに行動している、彼ら彼女らの勇気と愛国心に心より敬意を表します。

 ――最後に、日本政府および日本人に対してメッセージをお願いします。

 6年近くを過ごした日本は私にとって第二の故郷です。日本の皆さんにも今、ミャンマーで起きていることを知っていただき、自由と民主主義を守るための国民運動にご支援をお願いします。