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ワクチン狂騒曲:日本はどうする? 

ファイザーVSアストラゼネカ

塩原俊彦 高知大学准教授

ベクターワクチンと不活化ワクチン

 mRNAワクチンのほかにも、ベクターワクチンや不活化ワクチンなどがある。前者は、SARS-CoV-2にあるS(スパイク)タンパク質が感染受容体(ACE2)と結合してSARS-CoV-2の細胞への侵入を媒介する性質と関係している。

 ウイルス粒子表面から20~40個突き出している、このSタンパク質(写真参照)は免疫系によって認識され免疫応答を引き起こす性質もあるので、Sタンパク質の受容体結合部位を認識するいくつかの抗体はSARS-CoV-2とACE2との結合を干渉し、感染を阻害できる。ゆえに、コロナウイルスのSタンパク質を導入するためのキャリア(ベクターと呼ぶ)として、病気を引き起こさず、ヒト細胞内で繁殖できない別のウイルスであるアデノウイルスを体内に注入し、Sタンパク質への免疫ができるようにするのだ。このとき、アデノウイルスベクターに使用するのは、抗原となるタンパク質を合成する(核酸塩基配列を指示する)遺伝子を組み込んだ組み換えウイルスだ。

拡大ウイルス粒子表面から尽きだしているSタンパク質 Shutterstock.com

 ただ、アデノウイルスワクチンを接種した人は、Sタンパク質だけでなく、アデノウイルス自体にも免疫ができてしまうので、同じワクチンが再接種された場合、アデノウイルスが細胞内に入れない事態が起きうる。そこで、ヒト型のアデノウイルスを投与するロシアのスプートニクVでは、1回目の接種にはヒトアデノウイルス26を、2回目の接種ではヒトアデノウイルス5を用いることで抗体による認識の確率を下げて、抗体による誤った攻撃を防ごうとしている。

 つまり、すでにアデノウイルスに罹患している場合、すでにある免疫作用によってSARS-CoV-2への強力な免疫力が得られない可能性があることになる。このため、英国のアストラゼネカによるベクターワクチンでは、

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筆者

塩原俊彦

塩原俊彦(しおばら・としひこ) 高知大学准教授

1956年生まれ。一橋大学大学院経済学研究科修士課程修了。学術博士(北海道大学)。元朝日新聞モスクワ特派員。著書に、『ロシアの軍需産業』(岩波書店)、『「軍事大国」ロシアの虚実』(同)、『パイプラインの政治経済学』(法政大学出版局)、『ウクライナ・ゲート』(社会評論社)、『ウクライナ2.0』(同)、『官僚の世界史』(同)、『探求・インターネット社会』(丸善)、『ビジネス・エシックス』(講談社)、『民意と政治の断絶はなぜ起きた』(ポプラ社)、『なぜ官僚は腐敗するのか』(潮出版社)、The Anti-Corruption Polices(Maruzen Planet)など多数。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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