ベクターワクチンと不活化ワクチン
mRNAワクチンのほかにも、ベクターワクチンや不活化ワクチンなどがある。前者は、SARS-CoV-2にあるS(スパイク)タンパク質が感染受容体(ACE2)と結合してSARS-CoV-2の細胞への侵入を媒介する性質と関係している。
ウイルス粒子表面から20~40個突き出している、このSタンパク質(写真参照)は免疫系によって認識され免疫応答を引き起こす性質もあるので、Sタンパク質の受容体結合部位を認識するいくつかの抗体はSARS-CoV-2とACE2との結合を干渉し、感染を阻害できる。ゆえに、コロナウイルスのSタンパク質を導入するためのキャリア(ベクターと呼ぶ)として、病気を引き起こさず、ヒト細胞内で繁殖できない別のウイルスであるアデノウイルスを体内に注入し、Sタンパク質への免疫ができるようにするのだ。このとき、アデノウイルスベクターに使用するのは、抗原となるタンパク質を合成する(核酸塩基配列を指示する)遺伝子を組み込んだ組み換えウイルスだ。

ウイルス粒子表面から尽きだしているSタンパク質 Shutterstock.com
ただ、アデノウイルスワクチンを接種した人は、Sタンパク質だけでなく、アデノウイルス自体にも免疫ができてしまうので、同じワクチンが再接種された場合、アデノウイルスが細胞内に入れない事態が起きうる。そこで、ヒト型のアデノウイルスを投与するロシアのスプートニクVでは、1回目の接種にはヒトアデノウイルス26を、2回目の接種ではヒトアデノウイルス5を用いることで抗体による認識の確率を下げて、抗体による誤った攻撃を防ごうとしている。
つまり、すでにアデノウイルスに罹患している場合、すでにある免疫作用によってSARS-CoV-2への強力な免疫力が得られない可能性があることになる。このため、英国のアストラゼネカによるベクターワクチンでは、
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