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「個人重視・支え合い」の国家方針こそ国際政治のパラダイム転換に合致している

政権交代による方針転換は時代の要請だ

田中信一郎 千葉商科大学基盤教育機構准教授

 これまで絶対視されてきた軍事力に基づく安全保障は、現実の大きな変動によって、急速に相対化されつつある。20世紀までの世界と異なり、絶対的な軍事力を有していても、絶対的な安全保障を得られない状況になっているからである。

 実際、アメリカは核兵器を含む世界最強の軍事力を有しているが、民間航空機をハイジャックしたテロリストの攻撃を抑止できず、世界経済に大打撃を与えた金融危機の震源地となり、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)から核兵器開発の挑戦を受け、中南米からの移民に怯え、ハリケーンや山火事などの気候災害に襲われ、新型コロナウイルスの感染拡大で第二次世界大戦を超える死者を出した。それどころか、政治の中枢である連邦議会議事堂が、副大統領や下院議長の殺害を叫ぶ暴徒に一時占拠されてしまった。

 戦争・紛争の要因だけを見ても、従来の領土拡大や資源獲得によるものでなく、軍事政権と民主勢力との内戦、少数民族の迫害、食料危機に端を発した混乱など、必ずしも軍事力で抑止できないものが多くある。同時多発テロの策源地やIS(Islamic State)勢力の跋扈に至っては、アメリカ等の大国の軍事介入が新たな脅威を生んでしまった。アフガニスタンとイラクは、アメリカにとって第二・第三のベトナムと化している。

国際政治と安全保障のパラダイム転換

拡大「いずも」で行われた米海兵隊オスプレイの発着艦訓練=2016年7月22日、鹿児島県沖

 つまり、国際政治と安全保障において、根底から従来の枠組み(パラダイム)が転換しつつある。仮想の敵国からの侵略を抑止する軍事力の役割が相対化される一方、現実に起きている脅威に対処することが国際政治と安全保障の優先課題となっている。

 しかし、日本の過去20年近くの安全保障政策は、軍事力偏重の方向で逆行してきた。自民党政権は1999年に日米の軍事的な協力を強化する周辺事態法、2003年に有事法制と呼ばれる武力攻撃事態対処法、2015年に集団的自衛権の行使を目指す安保関連法を成立させると共に、初の本格的なヘリ空母「いずも」や初のステルス戦闘機「F-35」を導入するなど、防衛力を大幅に強化してきた。安倍・菅政権では、敵基地攻撃能力についての検討も始まっている。

 こうした安全保障政策は、周辺国の軍事力の増強を抑止できず、結果的に功を奏していない。ロシアは北方領土に駐屯する兵力を増強し、北朝鮮はアメリカに到達する弾道ミサイルの開発を進め、中国は尖閣諸島海域での挑発的な行動を拡大してきた。むしろ、台風等の気候災害や新型コロナウイルスという現実の脅威への対処で、自衛隊の評価は高まってきたにもかかわらず、自衛隊員の待遇改善や信頼確保に不可欠な情報開示には、法令や武器の整備ほどの力が入れられていない。

 これは、国家を重視する従来の国家方針に起因すると考えられる。日本に住む人々の生命・財産を守ることが安全保障の基本であることは、すべての政治家・官僚に共通すると考えられるが、国家重視で認識してしまうため、安全保障環境のパラダイム転換を捉えられていないと思われる。一方で、気候変動等の新たな脅威が目に入ってこないのではないか。

 したがって、国家方針を転換することは、現実の脅威を認識し、より効果的な安全保障政策を展開することにつながる。国家方針を転換しても、日本の人々の生命・財産を守るという安全保障政策の国家目標が変更されるわけではない。目標に至る方法を変えるのである。

 特に「個人重視・支え合い」の国家方針は、日本を取り巻く3つの脅威に対し、従来とは異なるアプローチを可能とする。以下、順を追って説明する。

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筆者

田中信一郎

田中信一郎(たなか・しんいちろう) 千葉商科大学基盤教育機構准教授

博士(政治学)。国会議員政策担当秘書、明治大学政治経済学部専任助手、横浜市地球温暖化対策事業本部政策調査役、内閣府行政刷新会議事務局上席政策調査員、内閣官房国家戦略室上席政策調査員、長野県企画振興部総合政策課・環境部環境エネルギー課企画幹、自然エネルギー財団特任研究員等を経て、現在に至る。著書に『政権交代が必要なのは、総理が嫌いだからじゃない』『信州はエネルギーシフトする』、共著に『国民のためのエネルギー原論』『再生可能エネルギー開発・運用にかかわる法規と実務ハンドブック』などがある。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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