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民主主義の敵とは何か?「分断」ははたして悪なのか? 

独自の意識調査で炙り出された日本人の価値観から考えた民主主義の未来

三浦瑠麗 国際政治学者・山猫総合研究所代表

 「民主主義の敵」とは何だろうか。それをここのところしばらく考えていた。

 2020年から21年にかけて、アメリカでは民主主義の敵が存在することが、自明であるかのごとく語られた。トランプ、及びその支持者が選挙結果を受け入れない。正当な手続きを踏みにじろうと、暴徒が連邦議事堂に侵入する。トランプを危険視してきた人々が期待した大統領弾劾は成立しなかったが、連邦議事堂への侵入は民主主義が直面する危険を象徴する事件となった。

 だが、こうした「民主主義の敵」はいとも簡単に検挙され、捕縛された。「民主主義の敵」は一線を超えた瞬間、あっというまに権利を取り上げられ、ツイッターをはじめとする独占的プラットフォームから追い出された。

 イヴァンカ・クシュナー夫妻は、転居後の高級住宅街で名門カントリークラブに入会を拒まれるのではないかと報じられ、ジュリアーニ元ニューヨーク市長はニューヨークの法律家協会から追い出された。

トランプは民主主義を壊したのか?

拡大Visuals6x/shutterstock.com

 それでも、トランプを支持する動きは衰えを見せていない。陰謀論に染まった人々が消えるわけでもない。興味深いことに、アメリカだけでなく日本でも、今回の米大統領選を巡って数多くのデマが飛び交った。

 同盟国がどんな政権になろうとも如才なくつきあい、ファーストネームで呼び合う関係に発展させるのが、この国の保守政権の取柄であった。しかし、バイデン新大統領に対する菅総理の公式ツイッターでの祝辞に、日本の保守系トランプ支持者による批判的リプライがぶら下がるという、かつてない光景が見られた。

 トランプ現象に危険が潜んでいないとは言えない。だが、トランプが打ち壊したものは、民主主義そのものではなかったと私は思う。彼が生み出したのは、国内に政敵を永遠に必要とする政治手法であって、社会主義的思想を禁じることでもなければ、野党を非合法化することでもなかった。トランプは「政府が勝手なことをやること」に対して敵対的だったが、「人々が勝手なことをやること」に対しては介入的ではなかった。

 政敵を永遠に必要とする政治手法とは、「リベラル」を敵視したり、相手を「ヒトラー」認定したりする政治だ。この手法をとると、相手にまつわる不利な情報は、たとえそれが完全なるデマにすぎなかったとしても、拾い上げてしまう。

 2016年の大統領選で広まったバカバカしいまでのデマのひとつに、ヒラリー陣営の関係者がピザ屋やレストランによる児童売春犯罪シンジケートに関わっているというものがあった。のちに「ピザ・ゲート」と呼ばれることになったこの陰謀論は右派の一部に浸透し、「ヒラリーの悪魔化」に使われた。

自らを利する情報が盲信される状況に

 だが、これがそれほどシンプルな話であるとも言い切れないのは、こうした陰謀論的情報が、民主党支持者の一部にも浸透していたことだ。「敵認定」と「際限のないあら捜し」の行きつく先としての陰謀論の蔓延(まんえん)は、なにも右派に限った話ではないのである。

 私たちは、取材や聞き取り調査に際し、相手の話を100パーセント真に受けるわけではない。それは取材者や研究者にとっては当たり前のことだったはずが、今や自陣営を利するとみられる情報が咀嚼(そしゃく)されずに、盲信される状況が生まれている。

 様々な種類のSNS利用の拡大が、情報の摂取や共有などにまつわるハードルを下げたことが、こうした状況を後押しする。多くの一般人に世間に発する「声」が与えられ、時にヒロイックな役割までもが与えられる。かと思うと、そこで得られた名声が一夜にして地に落ちるという事態も生じる。

 映画が数年がかりで作り上げるものだったとすれば、今は2時間映画並みの情報量が一日単位でいくつも放出され、それが上書きされていく状況と言えようか。そこには、人と人とのぶつかり合いがあり、かつてなく大きな声を発している人々がいる。そこに観客が群がり、情報が拡散されていく。

 アメリカが直面しているのは「民主主義の敵」ではなくて、権威が弱体化し、政党におけるエリート統治が機能しなくなった後、生身の民主主義に向き合うことに伴う困難さに他ならない。

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筆者

三浦瑠麗

三浦瑠麗(みうら・るり) 国際政治学者・山猫総合研究所代表

1980年神奈川県茅ケ崎市生まれ。東京大学大学院法学政治学研究科博士課程修了、博士(法学)。専門は国際政治、比較政治。東京大学政策ビジョン研究センター講師などを経て現職。著書に『シビリアンの戦争―デモクラシーが攻撃的になるとき』(岩波書店)、『「トランプ時代」の新世界秩序』(潮新書)、『あなたに伝えたい政治の話』(文春新書)、『21世紀の戦争と平和 徴兵制はなぜ再び必要とされているのか』(新潮社)など。政治外交評論のブログ「山猫日記」を主宰。公式メールマガジン、三浦瑠麗の「自分で考えるための政治の話」をプレジデント社から発行中。共同通信「報道と読者」委員会第8期、9期委員、読売新聞読書委員。近著に『日本の分断―私たちの民主主義の未来について』(文春新書)。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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