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五輪選手への優先的ワクチン接種にみる怖さ

国威発揚という現実に汚された五輪

塩原俊彦 高知大学准教授

 2021年2月28日付の「ニューヨーク・タイムズ電子版」は、「五輪選手が危険な新種目に参入 行列をジャンプ」という興味深い記事を掲載している。いくつかの国で、東京オリンピック・パラリンピック(以下、五輪)に参加する選手が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策のワクチン接種において、長い行列を無視して優先的な接種を受けているという現実を紹介しているのだ。インド、ハンガリー、イスラエル、メキシコ、リトアニアといった国がそれである。

 各国の五輪委員会(NOC)と政府の判断に基づいているのだろうが、結局、国威発揚と商業主義に汚されてしまっている五輪への不信感だけが募る状況が生まれている。ここでは、「汚された五輪」をめぐって論じてみたい。

五輪選手の接種を優先する国

 リトアニア五輪委は2021年2月11日、同国の五輪出場希望者が予防接種を受けている写真(下参照)を公開した。コーチや医療スタッフも希望すればワクチン接種を受けることができたという。教育・科学・スポーツ省の勧告を受けて出された政令によって、五輪出場予定選手などが優先リストに含まれるかたちをとったのである。

拡大リトアニアは2021年の東京オリンピック・パラリンピックを前に、選手へのワクチン接種を行っている
(出所)https://www.insidethegames.biz/articles/1104287/lithuania-covid-19-vaccination-starts

 これより前の1月29日には、ハンガリーにおいて五輪選手向けのワクチン接種が開始された。ハンガリー五輪委は868人の選手がモデルナ製のワクチンの接種を優先的に受ける計画であることを明らかにした。同日、セルビアでも五輪選手への優先接種がスタートした。

 国民への接種率がもっとも高いイスラエルでは、1月27日の段階で、イスラエルの五輪委が五輪代表の半分にワクチンをすでに接種しており、5月末までに完了するとのべたと、ロイター電が伝えている。

 インドのスポーツ相は五輪選手全員へのワクチン接種を主張している。これは、夏までに五輪に参加する者への優先的ワクチン接種にほかならない。メキシコのアンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドール大統領は2月中旬の段階で、五輪選手をワクチン接種の優先グループに入れることを明らかにした。

IOCの公式見解

 国際五輪委(IOC)は2月3日、五輪ルールを定めた「プレイブック第一版」(4月以降に版を重ねてゆく)を公表した。競技者用プレス用などがあるが、いずれにおいても下記のような同じ記述がある。

 「IOCは、脆弱なグループ、看護師、医師、そして私たちの社会を安全に保っているすべての人にワクチンを接種するという優先順位を強く支持しつづけている。ワクチン接種がより広く一般の人々にも利用できるようになったとき、IOCはオリンピック・パラリンピックチームにワクチン接種を呼びかける」

 つまり、IOCとしては、選手など五輪参加予定者への優先的なワクチン接種に明確に反対する立場をとっている。ただし、スイス・ジュネーブ発の共同電として、IOCは1月26日、選手や関係者に、延期された東京大会のために旅行する前にコロナウイルスの予防接種を受けることを推奨し、日本の人々の健康と安全を守る必要性を強調したという。

 最初に紹介した「ニューヨーク・タイムズ」の記事では、「米国、英国、イタリアのような国では、だいたい公式の立場をとっている」と指摘している。

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筆者

塩原俊彦

塩原俊彦(しおばら・としひこ) 高知大学准教授

1956年生まれ。一橋大学大学院経済学研究科修士課程修了。学術博士(北海道大学)。元朝日新聞モスクワ特派員。著書に、『ロシアの軍需産業』(岩波書店)、『「軍事大国」ロシアの虚実』(同)、『パイプラインの政治経済学』(法政大学出版局)、『ウクライナ・ゲート』(社会評論社)、『ウクライナ2.0』(同)、『官僚の世界史』(同)、『探求・インターネット社会』(丸善)、『ビジネス・エシックス』(講談社)、『民意と政治の断絶はなぜ起きた』(ポプラ社)、『なぜ官僚は腐敗するのか』(潮出版社)、The Anti-Corruption Polices(Maruzen Planet)など多数。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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