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「ですから」は政治家に禁句、効果的な「エレベータートーク」 国会回りの知恵

連載・失敗だらけの役人人生⑬ 元防衛事務次官・黒江哲郎が語る教訓

黒江哲郎 元防衛事務次官

「dことば」はタブー

 簡潔な説明を心がけるだけでなく、説明の際に使うべきでない言葉、使った方が良い言葉、相手に良い印象を与える言葉使いなども意識しました。防衛政策の章で触れた第二のK、すなわち相手の共感を得るための話し方です。

 政策案を説明する相手は、必ずしもこちらの案に賛成している人たちばかりではありません。案に興味のない人、懸念している人、反対の人など様々な相手に説明して、出来るだけ多くの人たちの理解と共感を得て賛成に回ってもらわなければならないのです。そのためには、相手の疑問点や懸念をも含めて率直なやり取りをする必要があります。

 その際、ちょっとしたことで不必要に不快感を抱かせたり、相手を怒らせたりしないように注意すべきことは当然です。望ましいのは、相手に肯定感や安心感、親近感を抱かせ、話しやすい雰囲気を作ることです。ポジティヴで友好的な雰囲気の下では自然に会話が弾み、率直なやり取りもしやすくなります。こうしたことを可能にする話し方や言葉使いを、私はポジティヴ・コミュニケーションと呼んでいます。

※写真はイメージです

拡大2020年。朝日新聞社

 ネットで「ポジティヴ・コミュニケーション」を検索するといくつかの使われ方が見つかりますが、私は「相手の気持ちや相手との会話の雰囲気を前向き、肯定的なものにするためのコミュニケーションの仕方」というような意味で使っています。ポジティヴ・コミュニケーションは、部外者に政策を説明する場合だけでなく、上司として組織を管理する際にも効果を発揮しますし、私生活で円満な人間関係を作る上でも役立ちます。以下には、その具体的な技を紹介します。

 ポジティヴ・コミュニケーションの中で、相手に不快感を抱かせないための代表的な技が「dことばのタブー」です。

 国会担当審議官は、防衛省関係の与党の部会にはほとんど全て出席します。そうした場で原局原課の説明に立ち会い、説明ぶりや応答ぶりを聴いていてとても気になることがありました。質疑応答の中で役所側が「ですから」と「だからですね」という言葉を使うたびに、確実に会議の雰囲気が冷えていくのです。

 そんなことが気になっていたある日の夕方、たまたまつけていたテレビのニュース番組に目が釘付けになりました。タクシーのドライバーが客に暴行される事案が多発していることから、ドライブレコーダーの記録を分析してその原因を究明しようとしたというニュース特集でした。それによると、運転手さんのある言葉が客をイラつかせ、怒りをエスカレートさせるのだそうです。それがまさに「だから」と「ですから」でした。

 特に、酔客は認識力が低下しているので、道順を繰り返し確認したりしがちです。そういう客に対して運転手さんがうかつに「だから」「ですから」を使って答えると、「これだけ言ってもわからないのか」というニュアンスが伝わり、客を怒らせてしまうのだそうです。そのタクシー会社は、暴行事件を減らすためにこれらの言葉を使わないように乗務員に指導しているということでした。

 偶然見た番組だったのですが、目からうろこが落ちたような気がしました。政党の部会などの場で「だから」「ですから」を多用すると、質問者に対して「さっきから説明しているじゃないですか」「まだわかりませんか」と言っているのと同じだということなのです。

拡大自民党国防部会に出席した防衛官僚ら(手前)=2020年、東京・永田町の自民党本部。藤田撮影

 この二つの言葉よりもさらに悪い印象を与えるのが「だったら」です。さすがに部会で役所側から出ることはありませんが、言うまでもなく「だったら、どうしろと言うのですか?」という開き直りのニュアンスを伝える言葉です。このことに気づいてから、説明の際には出来るだけ「だから」「ですから」などの言葉を使わないように意識するようになりました。

 インターネット上にも「D言葉」「dことば」などとして、「でも」「だって」「だから」「だったら」などの言葉は相手に否定的なニュアンスを伝えて事態を悪化させる効果があるので、特にトラブルに遭った時は使わない方が良いとする記事がたくさん出ています。政策の中身は素晴らしいのに、些細な言葉使いで相手を怒らせたりするのは愚の骨頂ですから、「dことばのタブー」は十分に意識しておくべき技だと思います。

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筆者

黒江哲郎

黒江哲郎(くろえ・てつろう) 元防衛事務次官

1958年山形県生まれ。東京大学法学部卒。81年防衛庁に文官の「背広組」として入り、省昇格後に運用企画局長や官房長、防衛政策局長など要職を歴任して2017年退官。現在は三井住友海上火災保険顧問

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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