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原発事故から10年、再び勃興する核武装論

保守派と核・原発、その主張の変遷

古谷経衡 文筆家

「もんじゅ」の維持も叫んだが

 一方、日本の保守派が言う「潜在的核保有能力」の担保の為に、54基の軽水炉の維持のほかに声高に叫んだのは高速増殖炉『もんじゅ』の維持である。

 もんじゅを運転させると、兵器級プルトニウムであるプルトニウム239が生成される。既知の通り、もんじゅは2兆円を超える巨費をかけて建造・運転されたが、1995年に出力45%の試験運転中にナトリウム漏れ事故により運転を停止。その後再稼働を目指したが2010年に炉内にクレーン中継器が落下する事故が起こって以来、またも稼働できなくなり、震災を経て廃炉方針となった。

 これにも保守派は強く反発した。もんじゅが安定的に稼働すると、核兵器製造に必要な兵器級プルトニウムが容易に手に入る。そして日本はすでにウラン濃縮・再処理技術を持っているので、核武装の前提条件が「一応」そろう――、という理屈である。だが材料はそろっても、核武装のためには日本はNPT体制から脱退せざるを得ず、これが現実的に難しいので、とりあえず軽水炉54基維持ともんじゅ廃止の愚を説き続けた。

廃炉作業が進む高速増殖原型炉「もんじゅ」=2019年7月25日、福井県敦賀市、朝日新聞社ヘリから拡大廃炉作業が進む高速増殖原型炉「もんじゅ」=2019年7月25日、福井県敦賀市、朝日新聞社ヘリから

実行されなかった「汚染水はコーヒーに使うレベル」

 実際に3.11と福島原発当時、日本の保守派は、福島の原発事故は想定外の津波で電源喪失しただけであり、地震の揺れそのものには耐えた――よって安全である、と喧伝した。しかし事故調の検証により、現在では3.11の地震の揺れそのものによって、原子炉施設の損傷が明らかになっている。福島第一原発は、津波が到達する前の段階で損傷していたのである。

 この事実が明るみになるや否や、今度は保守派は、「原発事故は不可抗力としても、放射能汚染は恐るるに足らない」という珍説を展開しだした。保守系言論人で都知事選挙にも出馬した航空自衛隊の元重鎮は「福島原発の汚染水はヨーロッパ、アメリカにもっていけば、コーヒー、お茶に使う水だ」と発言して大きな顰蹙を買った。「福島は安全であり、汚染されていない」として、「福イチの正門前に土地を買って住みたい」とか「自分が炉心に水を入れてくる」とか「チェルノブイリに比べればレベル7は大げさに過ぎる、せいぜいがレベル5程度」という根拠のない言説が彼らの界隈の中で大手を振って歩きだした。

 だがあの事故から10年を経ても、当時そう放言した人々は福島原発の近くに移住するどころか、福島に行こうともしなかった。もちろん、汚染水でコーヒーを飲んだこともなかった。

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筆者

古谷経衡

古谷経衡(ふるや・つねひら) 文筆家

 1982年北海道生まれ。立命館大文学部卒。日本ペンクラブ正会員、NPO法人江東映像文化振興事業団理事長。主な著書に『愛国商売』(小学館)、『日本型リア充の研究』(自由国民社)、『愛国奴』(駒草出版)、『女政治家の通信簿』(小学館)、『日本を蝕む極論の正体』(新潮社)、『道徳自警団がニッポンを滅ぼす』(イーストプレス)、『意識高い系の研究』(文藝春秋)など多数。【Twitter】‎@aniotahosyu【公式サイト】http://furuyatsunehira.com/

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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