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オーストラリアのプラットフォーマー規制問題の本質

ターゲティング広告規制の必要性

塩原俊彦 高知大学准教授

 オーストラリア上下両院は、2021年2月25日、フェイスブックやグーグルなどのデジタルプラットフォームがその画面や検索結果にコンテンツをリンクさせるために利用してきた活動に対して、地元のメディアや出版社にお金を支払うことを義務づける法案を可決した。いわば、プラットフォームを提供するプラットフォーマー企業(当面はフェイスブックとグーグル[アルファベート傘下])にいわゆる「記事利用料」の支払いを義務づける内容となっている。

 これだけをみると、政府がプラットフォーマーに対する規制を強化しようとしているようにみえる。だが、それはプラットフォーマー規制のごく一部にすぎない。ここでは、世界中で起きている巨大化するプラットフォーマーに対する各国政府の規制の取り組みを明らかにするなかで、今回のオーストラリアでの新しい規制の動きを位置づけてみたい。

TY Lim / Shutterstock.com

最近のプラットフォーマー規制

 すでに、プラットフォーマーに対する規制が世界中で広がっていることについては、拙稿「プラットフォーマー規制をめぐる欧州でのロビイストの暗躍」で詳しく説明した。ほかにも、世界中の国々がいわゆるデジタル課税を導入して、超国家企業たるプラットフォーマーへの課税を強化しようとする動きが着実に広がっている(この点については、拙稿「デジタル課税問題のいま」「パンデミックがデジタル課税を後押しする皮肉」を参照)。

 最近で言えば、2021年2月22日、英国の競争監視機関(競争市場庁)はグーグルやアマゾンを含むテックジャイアンツに対する一連の独占禁止法の調査を開始する計画であることを明らかにした(2021年2月22日付「ガーディアン電子版」)。カナダでは、オーストラリアと同じようなプラットフォーマーへの義務づけを内容とする法律案が数カ月先に審議される予定だ(同2月15日付「ワシントン・ポスト電子版」)。

 米国内では、メリーランド州上院が、2021年2月12日、知事の拒否権を無効にする投票に成功し、フェイスブック、グーグル、アマゾンのような企業によって販売されたデジタル広告からの収入に対する国内初の税金を導入する法案を成立させた(2021年2月12日付「ニューヨーク・タイムズ電子版」)。制定後の初年度には、推定2億5000万ドルもの利益を生み出す(ただし、すでに法廷闘争が起きており、実際に導入されるかどうかは不明)。コネチカット州とインディアナ州の議員は、すでにテックジャイアンツに課税する法案を提出している。ニューヨーク州では、ハイテク企業を訴えやすくするための独禁法の改革が提案されている。

オーストラリアでの新法

ルパート・マードック
 ここで、今回、オーストラリアで制定された法律について説明しておきたい。この法律は競争・消費者委員会によって提案されたもので、長年、メディア王のルパート・マードックがグーグルなどを「記事にただ乗りしている」と批判してきたことに対応した措置だ。

 この法律は財務省法改正というかたちで行われ、「ニュースメディアとデジタルプラットフォームの強制交渉規約(コード)」を定めるものであった。グーグルとフェイスブックに報道機関や放送局の報道への対価支払い(いわゆる「記事利用料」)を義務づける内容となっている。

 下院が2月17日、第三読会で法案を可決すると、同法案の成立に反対してきたフェイスブックは同日、オーストラリアの利用者がニュース記事へリンクしたり共有したりすることを禁止すると発表した。

 これに対して、同じく、オーストラリアでの検索エンジンを停止すると脅して、同法案に反対してきたグーグルはこの姿勢を改めた。グーグルは2月から、報道機関に記事の対価を支払うプラットフォーム「ニュース・ショーケース」をオーストラリアで開始、オーストラリア報道機関7社が支払いの対象となっていた。15日の段階で、グーグルはオーストラリア大手メディア、セブン・ウエスト・メディアとの間で長期提携することで暫定合意していたが、24日、マードックのNews Corpと、ウォールストリート・ジャーナルからのコンテンツを含む3年間の取り決めで合意が成立した。

 なお、グーグルは2020年6月25日の段階で、年後半に発売する新しいニュース体験のための高品質なコンテンツ(前述の「ニュース・ショーケース」)に対してニュースを提供するメディアに支払いを行うことを発表していた。手始めに、ドイツ、オーストラリア、ブラジルのメディア企業とパートナーシップを結ぶなど、新しい方針で臨んでいた。2021年1月になって、グーグルは自社コンテンツのスニペット(本文から切り取った見出し部分)の再利用のための支払い方法について、フランスの出版社協会と合意に達していた。フランスでの「ニュース・ショーケース」向けの支払いとなる。

 一方、フェイスブックの禁止方針への批判から、同社も上院審議の過程でこの方針を撤回する。23日に、ジョシュ・フライデンバーグ財務相とフェイスブックのマーク・ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)との間で合意が成立したのである。フェイスブックのようなプラットフォーマーと報道機関が正当な記事利用料で合意できない場合に義務づけられる仲裁の仕組みなどについて4点の法案修正でまとまったのだ(これは拘束力のある仲裁システムなので、重要な意味をもつ)。

 これを受けて、24日、修正案が上院の第三読会を通過し、最終的に25日、下院がこの修正案を承認した。26日になって、フェイスブックはオーストラリアのメディア企業3社と提携に関する基本合意書を結び、問題解決へ向けた交渉が前進しつつある。

欧州での記事利用料をめぐる争い

 実は、この記事利用料をめぐっては、欧州でも争いが起きている。といっても、最初にのべたように、プラットフォーマー規制をめぐる一連の課題の一部としてこの利用料が問題化しているにすぎない。

 プラットフォーマーに記事利用料の支払いを義務づける法律(「欧州著作権指令」)は、欧州連合(EU)の著作権ルールを近代化するために、EUの執行機関である欧州委員会は2016年にルールを提案、2019年2月になって妥協案の文言についての非公式合意に達し、同年3月、欧州議会本会議で承認されたあと、4月に承認された。

 著作権指令自体は、教育・研究・文化遺産関連の著作物を利用する機会を増やすことを目的としている。その第11条で、出版社などのメディア側が提供するテキストの一部をプラットフォーマーが表示することに対して金銭を要求する権利が与えられたと解釈されている。これは、2013年8月1日に施行されたドイツのいわゆる「出版社の付随的著作権法」で、ウェブ検索エンジンによって提供されたニュースのスニペットであっても料金が徴収可能となったことの延長線上にある。だが、グーグルはこれに応じない状況が

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