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「国際防衛展示会・会議」(IDEX)が教えてくれる武器輸出の現状と課題

丹念に研究しリアル・ポリティーク分析につなげよ

塩原俊彦 高知大学准教授

 国際政治を分析すれば、だれしも冷酷な「力の論理」が働いていることがわかるだろう。だからこそ、現実世界の厳しい権力闘争である「リアル・ポリティーク」への理解を深めるために、軍事問題にも真正面から取り組まなければならない。こう信じる筆者は、『ロシアの軍需産業』(岩波新書)で、ロシアの軍事面を支えている産業構造の分析から出発した。その昔、まだソ連が存在した時代に、思想家、柄谷行人から直接、ソ連を理解するには軍事力の分析が不可欠だと教えられたことが契機となっている。

 ついで、『「軍事大国」ロシアの虚実』(岩波書店)を書き、軍事面からソ連やロシアを徹底的に分析することに努めた。その過程で、核戦力というリアルな世界覇権の中核的存在を理解する目的で、東洋書店の編集者から求められて『核なき世界論』を著した。

 こうした経歴をもつ筆者はいまでも「武器輸出」にまつわる世界の「軍事構造」に関心をもっている(武器の装備品や完成品のほか、サービス提供を含めて、以下では「武器輸出」とみなす)。こうした分野を知らなければ、世界覇権をめぐる地政学的分析はできないからである。そんな筆者にとって、2月21日から25日までアラブ首長国連邦(UAE)の首都アブダビで開催された「国際防衛展示会・会議」(IDEX)および「海軍防衛展示会」(NAVDEX)は無視できないイベントだった。そこで、2年に一度開催されるIDEX・NAVDEXを機に、武器輸出について考えてみたい。

日本も参加するIDEX

アブダビで2年に一度開催される「国際防衛展示会・会議」(IDEX) z.o.y.a / Shutterstock.com

 武器を輸出するには、その武器の性能を知ってもらう必要がある。そのためのデモンストレーションが行われたり、武器が展示されたりする「展示会」や「ショー」が世界中で開催されている。事前の案内を2月20日閲覧したところによると、今回のIDEXには、59カ国から900社以上の出展者が参加し、35カ国のパビリオンが出展される。NAVDEXには16カ国から70社以上の出展者が参加する。米国、パキスタン、英国、バーレーン、バングラデシュ、イタリア、南アフリカ、インド、ギリシャ、UAEの10カ国から17以上の海軍部隊と艦艇が参加する。

 日本からは防衛省の防衛装備庁がパビリオンを出し、川崎重工業などが参加する。こうした防衛装備庁の出展はもはやまったく目新しいことではない。『防衛白書』(令和元年版)によれば、2018年にフランスの「ユーロサトリ」(欧州防衛・セキュリティ展示会)、米国のAUSA(米陸軍協会展示会)やインドネシアのINDO DEFENCEなどのほか、ドイツの「ベルリン・エアショー2018」に出展した。

 『防衛白書』(令和2年版)には、2019年11月、UAEの「ドバイ・エアショー2019」に出展し、C-2輸送機の地上および飛行展示をしたことや、同年11月に幕張メッセで開催された「防衛・セキュリティ技術国際展示会/カンファレンス DSEI Japan 2019」に出展したことが記されている。

千葉・幕張メッセで開かれた「防衛・セキュリティ技術国際展示会/カンファレンス DSEI Japan 2019」=2019年11月18日

武器輸出の実績

 日本政府は2011年12月、「防衛装備品などの海外移転に関する基準」についての内閣官房長官談話により、①平和貢献・国際協力に伴う案件、②わが国の安全保障に資する防衛装備品などの国際共同開発・生産に関する案件について、厳格な管理を前提に武器輸出3原則などの例外化措置を講じた。ついで、2014年4月、前年12月の「国家安全保障戦略」に基づいて、防衛装備の海外移転について武器輸出3原則に代わる「防衛装備移転3原則」を策定した。これに伴って、「武器輸出」の態勢整備のために2015年に発足したのが防衛装備庁ということになる。

 だが、輸出実績はあがらず、2020年8月28日、当時の河野防衛大臣が三菱電機とフィリピン国防省との間で防空レーダー4基の輸出契約が成立したと発表した。これが完成品の初の輸出で、受注総額は1億ドルだ。

 菅義偉首相がベトナムを訪問した同年10月19日に、日越両国が「防衛装備品の輸出と技術移転に関する合意」に署名した。これは、「防衛装備品・技術移転協定」と呼ばれる武器輸出の前提となるものだが、その具体的な内容は明らかに

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