国際的に問題だと指摘されている日本の夫婦同姓。ジェンダー平等に向けて見直しの時機
2021年03月06日
森喜朗さん(東京五輪パラリンピック組織委員会前会長)の“女性蔑視”発言が国際的に大きな問題になったことで、日本の女性をめぐる状況のひどさ、「ジェンダーギャップ指数」世界121位という悲惨な現状が再認識されました。国内外からの批判に、これはまずいと森さんは会長をお辞めになりましたが、実は私は森さんが居直ってくれるといいのにと、非難されることを覚悟で考えていた人間です。
理由ははっきりしています。森さんが辞めてテレビに顔が出なくなった途端に、テレビも紙媒体も女性問題に興味を失い、ジェンダー平等などあっという間に忘れられるにちがいないと踏んだからです。もっと言えば、森さんにさらに言ってもらいたいことがあったから。
それは、「夫婦別姓なんてとんでもない」です。
この夫婦同姓問題。実はこれもまた、何度も国際的に問題だと指摘されているのです。
具体的には、2003年、09年、16年に国連女性差別撤廃委員会が、夫婦同姓を「差別的規定」として、我が国に是正勧告を行っています。
ところが、この勧告を国会も司法も無視してきた。いや、無視といっては言い過ぎかもしれません。でも、最高裁大法廷でも、夫婦同氏を定める民法750条が、憲法14条や24条に違反はせず、合憲だとされたのです。
言うまでもなく、14条は法の下の男女の平等を定め、24条は結婚での両性の平等を定めています。最高裁の15人の判事のうち、10人の男性判事は家族が同じ姓を使う利点を強調し、形式的な不平等はないと判断しました。残る5人は違憲としましたが、この5人中、女性は3人でした。つまり、15人中3人しか女性判事がいない。まあ2割というのは、衆議院に占める女性議員の倍ではありますが……。
数の問題もさることながら、合憲と賛成した最高裁判事の男性たちが、もし結婚する時、妻となる人から、あなたが姓を変えてと言われたら、どんな気持ちになったか想像したことがあったでしょうか。たぶん、考えたこともなかったでしょうし、自分の中に、ジェンダーバイアスがあることにも気づいてはおられないでしょう。政治の世界にもそういう人は多くいますが、司法の世界も同様だと思います。
最近の調査では、選択的夫婦別姓制度に賛成する人が多くなってきています。特に20代30代の若い世代に多いと言います。これから結婚しようという人達にとっては現実的な問題だから、当然でしょう。
もちろん、もしこの制度ができても、選択制だから、同姓を選んでもかまわない。実際、夫婦別姓に賛成だが、自分は同姓を選ぶという人が圧倒的に多い。多くの人々は民主的で公正です。
ただし、子どもたちの姓をどうするのかという問題はあり、自分自身のアイデンティティや便利さと引き換えに、混乱や不便をもたらすけど、そこは大丈夫ですか。とも問われています。
しかし、制度のないこの日本で事実婚による夫婦別姓を実行している人たちによれば、子どもたちは別段困ることも、それで家族仲が悪くなることはないといいます。そんなことは当然で聞くまでもないことですが、にもかかわらず、夫婦別姓は家族を破壊すると声高に言い募る人たちがけっこういるのです。特に政治の世界では。
法務大臣の諮問機関である法制審議会では、30年も前の1991年から、結婚や家族に関するさまざまな民法規定の見直しを始めていました。1993年に参議院議員となった私は法務委員会で何度も別姓議論について質問し、法制審議会では導入に積極的な意見が圧倒的多数と聞いていたので、ジェンダー平等がやっと一歩進むと喜んだものでした。
ところが、自民党議員の猛反対で、法務省は国会に法案を提出できませんでした。各省庁の法案は国会に法案を提出する前に、与党の事前審査を受けて了承されることが不文律になっており、自民党が反対だと法案は出せません。
その後すぐに、当時は新進党にいた私は参議院で夫婦別姓法案を出しましたが、審議すらされませんでした。
自民党の反対理由の多くは、家族の絆がこわれる、離婚が増える、子どもがかわいそう、日本の伝統を壊す、といったものでした。
日本の伝統といったって、夫婦同姓は明治時代にできたもの。江戸時代は、夫婦別姓だったのです。実際、明治9(1876)年の太政官指令では夫婦別氏を定めています。その22年後の明治31(1898)年に明治民法で夫婦同氏を定めたのは、富国強兵の国の基本となる家族を、戸主を中心にまとめる必要があったからのようです。ちょうど時代は日清戦争(1894年)から日露戦争(1904年)の頃でした。
つまり、夫婦同姓は挙国一致の基本であり、一人ひとりの個人よりも国家を優先して定められた制度といっても過言ではありません。その後、昭和20(1945)年の敗戦まで日本はずっと戦争の時代でした。
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