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「尖閣に日本の主権」発言を訂正 米国防総省報道官の謝罪騒ぎは何だったのか

米中対立下の「同盟管理」を竹内行夫・元外務次官と考える

藤田直央 朝日新聞編集委員(日本政治、外交、安全保障)


拡大沖縄県石垣市の尖閣諸島=2013年。朝日新聞社機

 米国防総省の報道官が日本の主権は尖閣諸島に及ぶと発言しながら、3日後に訂正して謝罪――。バイデン政権発足早々の2月末に起きたこの騒動は、一体何を意味するのか。

 日米の「同盟管理」に長年携わり、「外交戦略は細部に宿る」としてこの問題を重視する竹内行夫・元外務事務次官と考えた。

三日後「誤りで混乱招いた」

 騒動をおさらいする。2月23日、ワシントンの国防総省で行われたカービー報道官の記者会見。日本の海上保安庁にあたる中国海警局の船舶による尖閣周辺領海への侵入について問われたカービー氏は、国際法違反を続ける中国に同盟国とともに対応すると語った。そしてうまく言えなかったとして、こう言い直した。

 「我々は日本の主権を支持する。中国に海警船舶を用いる行動を避けるよう促す。誤算による実害が生じうるためだ」

 ところが2月26日の記者会見で質疑に入る前に、3日前の発言を訂正するとして「尖閣諸島の主権に関する米国の政策に変更はない」とし、「先日の誤りを遺憾に思う。混乱を招いたことを謝罪する」と述べたのだ。

2月26日、米国防総省でのカービー報道官の記者会見。「訂正発言」は16分55秒から=同省サイトより

 ちなみにカービー氏はバイデン政権発足で現職に就いたばかりだが、経験は豊かだ。海軍出身で海軍省報道官(少将)まで務めて2015年に退官し、その後も国務省報道官やCNNの軍事・外交アナリストになった。それでも、この謝罪はかなりわかりにくかった。

 尖閣の主権について、日本を支持した発言は誤りだったとするが、前提となる「米国の政策」とは何なのか。「変更はない」とすれば、国のトップの大統領発言としては「We don’t take a position(立場を取らない)」(2014年のオバマ氏)ということになるが、カービー氏はそこまでは述べていない。

 しかもカービー氏はこの訂正発言の際、尖閣に言及して「米国は現状を変えようとするいかなる一方的行動にも反対する」と強調。中国を牽制する姿勢は3日前と同じなのだ。

 カービー氏は、最初の発言を自分のミスとしつつ、訂正発言にあたっては「詳しくは国務省の同僚に」とも語り、日本や中国との関係もふまえ尖閣問題に外交的に対応する国務省と調整したことを示唆。米政府内でのこの問題の複雑さをうかがわせた。

 日中がにらみ合う尖閣問題に米国がどういう姿勢で臨むかについて、日本政府は当然神経を尖らせている。私の取材では、「日本の主権を支持」というカービー氏の最初の発言を日本側でも唐突に思い、米側に問い合わせた。そこから訂正発言に至る過程では、日米間で調整があった。

 そうした調整ができた背景には、2014年のオバマ発言以来、あるいはさらにさかのぼる1990年代からの、尖閣問題をめぐる日米間での「同盟管理」の蓄積があった。そう語るのは、現役外交官の頃からこの件に関わり続ける竹内行夫・元外務事務次官だ。米国公使や外務省の条約局長、北米局長などを歴任。2005年に退官後、最高裁判事も務めた。

拡大取材に応じる竹内氏=3月、東京・千駄ケ谷。藤田撮影

 ここからは竹内氏へのインタビューをふまえ、この騒動の背景と教訓を探る。

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筆者

藤田直央

藤田直央(ふじた・なおたか) 朝日新聞編集委員(日本政治、外交、安全保障)

1972年生まれ。京都大学法学部卒。朝日新聞で主に政治部に所属。米ハーバード大学客員研究員、那覇総局員、外交・防衛担当キャップなどを経て2019年から現職。著書に北朝鮮問題での『エスカレーション』(岩波書店)、日独で取材した『ナショナリズムを陶冶する』(朝日新聞出版)

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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